悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
*
「結婚する前にいくつかあなたにお聞きしたいことがあります」
翌日つかさは頼久の執務室に呼ばれていた。
結婚という名の取引について、具体的に話を詰めるためだ。
一度帰宅してからやはりあれは幻だったのではないかと思ったが、頼久から「具体的な話を詰めたい」というメッセージが届いた時、あれは現実だったのかと思い知らされた。
今更この結婚を辞めるつもりはない。
だが、確認しておきたいことがある。
「私と結婚することで、あなたに何のメリットがあるんです?」
「そのことか」
頼久はクイッとメガネを押し上げる。
「一言で言えば、派閥争いを遠ざけたい」
「派閥争い?」
「関屋検事正を知ってるか?」
「関屋検事のお父様で東京地検のトップ……ですよね」
この辺りのことは岸本弁護士から少し話を聞いていた。
「関屋検事正は姪と僕を結婚させようとしている」
「姪御さんを? 何故です?」
「身内に加えて僕を手駒にしたいからだ。関屋検事正は検事になりたての頃に世話になった恩師ではあるが、あの人の言いなりになるつもりはない」
頼久はフン、と鼻を鳴らした。
「僕の後ろ盾を恐れ、自分の派閥に加えておきたいという魂胆もあるのだろう」
「後ろ盾……」
「君はよく知っているはずだ。僕の家族のことを」
「……なるほど」