悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
検事の派閥についてはよくわからない。
だが頼久の家系についてはつかさも知っており、その大きさと影響力がいかほどか、一般人でも容易に想像がつく。
「とはいえ、表向きは恩師で上司だからのらりくらり交わすしかなくてな。婚約者がいると嘘を言ってもあの人にはバレる。そんな時に君が現れたんだ」
そう言って頼久はつかさを見やる。
「全く知らない相手に妻役を頼むのはリスキーでしかない。だが幼なじみの君なら、適任だろう?」
「そう……でしょうか」
「身元がわかっている上に口裏も合わせやすい。これほどの適任はいないと思うが?」
自分は本当にただの取引相手なのか、とつかさは落胆した。
心の奥底でもしかしたら、と期待する気持ちが一ミリだけあった。
だが完全なるビジネスなのだと再認識した。
「……なるほど、理解しました」
「それで、君はいつまで敬語なんだ? つかさ」
突然名前を呼ばれ、ドキッとする。
「夫婦になるのにおかしくないか?」
「……わかった」
「君の弟の件についてはしっかり再捜査を行うから安心して欲しい。僕も疑問に思うところがあったしな」
「よろしくお願いします」
つかさは頭を下げながら、この疑問をぶつけてもいいのか迷っていた。
(いや、でも気になる。この際聞きたい)
つかさは顔を上げ、意を決して頼久に尋ねた。
「もう一つ聞いてもいい? どうして検事になったの?」