青春恋愛ミッション

第8話 夏の学生アルバイト

  夏の朝は爽快で、すみれが一番好きな季節でした。
 
 近くの牛乳版売店で、朝に配達する出来立ての新鮮な牛乳が充填された瓶を一つ一つ丁寧に専用バックに収めていました。

 いつも麦わら帽子をかぶって新品の自転車に乗って牛乳を配達する姿は、他の従業員からも不思議な少女という感想が多いのでした。
 しかしその意外さが、一部の従業員からは期待するとともに励ましのエールも聴こえてきそうな気配です。
 すみれ「あそこの藤田さんちはこの2本、次の高田さんは...」

 覚えたての牛乳の配達順路帳をもとに今日の配達分の牛乳びんの仕分けをしていました。 
 
 配達の準備をしているといよいよあたりは夏の朝日が顔を覗かせ始めていました。
 
 販売店の店長「すみれちゃん今日もよろしく頼みます。」
 
 販売店の店長「吉田さん宅にはこのオレンジジュース1つサービス品入れといて」 
 
 販売店の店長「あと、坂田さんちは今日から1ヶ月配達休止になったから」
 
 すみれ「わかりました、任せてください」
 すみれ「じゃあいってきます」

 自転車の前の荷物カゴから牛乳びんを取り出し、玄関前の牛乳ボックスに入れるすみれは、とにかく急がなければ時間内にノルマが終わらないという学校ではあり得ない、時間との競争に駆られるのでした。
 
 すみれ「牛乳の配達順路帳の通りに行くと次は、配達休止の坂田さんか...」
 すみれ「じゃあ、新発売のカルシウム3倍の牛乳のチラシを入れておくことにするか...」

 あさがおの花に昨日の雨粒がついていて、それがきらりと朝日に反射して朝の健やかさを演出し、自転車のカゴに積まれた、牛乳瓶の水滴が新鮮な牛乳の美味しさを伝えていました。
 
 高校二年の夏休みの間だけの牛乳宅配のアルバイトを引き受けたすみれは、朝の配達を終えると、自宅で軽い朝食を摂っていました。

 すみれは、新聞配達とも思ったのでしたが、彼女のイメージが新鮮な牛乳が好きだったことと一年生の時に年賀状の配達アルバイトを経験していたので、もっと別のアルバイトを探していたからなのでした。

 それが牛乳配達のアルバイトでした。

 すみれ「今日の配達も無事終わったよ!」
 すみれのお母さん「お疲れさま」
 「さあ、朝ごはん準備できているわよ」
 すみれ「いただきま〜す」

 若いだけに小柄ですが、みるみる食べるすみれにみんな力強さを感じるのでした。

 すみれ「冷凍物だけど秋刀魚(さんま)はおいしい」

 「この酢橘(すだち)がまた美味しいこと」

 「今年の新秋刀魚(さんま)って大漁かな」ときれいにさんまの骨を上手に取り除く器用さに、すみれの弟は、「僕にも教えて!」とせがんでいました。

 すみれ「こうやって背骨に沿って箸で筋をつけて、開いてそうして尾びれをつかんでを骨ごと...」

 「そうそう」「上手ね」

 弟はすみれの見よう見まねで、さんまの骨の取り方を習っているのでした。

 弟「できた。ありがとう!」

 朝食後の午前中は学校からの夏季課題をこなしていました。
 
 英語の短編小説の日本語への翻訳課題を辞書を引きながら翻訳しました。
 
 夏休みだけあって、終戦に関する内容の小説でした。
 
 すみれ「感動する内容ね。」
 すみれ「英語とはいえ面白い小説だわ。」
 
 風鈴の音「ちりんちり〜ん」

 すみれの部屋の窓にかかっている風鈴が鳴ってお昼どきを知らせているようです。
 すみれ「あっ、もうお昼だわ。」
 
 昼食はそうめんでした。
 
 かつおぶしを入れた特製つゆは、夏の涼しさを一層引き立てていました。
 
 こぶたの形をした蚊取り線香のおき物は夏の風物詩のようでした。
 
 夏の1日が何事もなく過ぎていくのでした。

 次の早朝、すみれがアルバイト先の牛乳販売店に赴くと、
 
 販売店の店長「配達休止中の坂田さんから、今日から新製品の牛乳を新しく配達して欲しいって申し入れがあったよ。」
 「チラシがよかったって」

 思わぬ話にすみれは、小さな喜びを感じていました。

 すみれ「もう少しおもしろいチラシを作りましょうか?」
 販売店の店長「いや、このままでも十分だよ」

 すみれの作ったチラシ、は評判の良いものでした。

 販売店の店長「学生ってありがたいね」
 「何も言わないのに販売促進してくれるなんて」
 「また機会があったら手伝ってね」
 「幹部にも伝えておくからね」

 「最近牛乳を飲む人が減っていてね、増やそうといろんな策を考えているところだったんだ」
 「大助かりだよ」「ありがとう」
 すみれ「どういたしまして」

 店長は満面の笑みですみれに、ねぎらいの声をかけていました。
 すみれはニコニコして微笑み返しました。
 牛乳の白さは、少女の心の潔白さを表すかのように、夏の真っ白な雲の代わりに、青空の中でただ笑みを浮かべる金平糖(こんぺいとう)のようでした。

 東の空にいつも通り登っていく朝日は、ニコニコしたスマイルを連想させるお天気マークのように輝いていました。
 いつも通り、牛乳の配達に出かける従業員たちでした。

 すみれにとって長いようで、短い真夏の出来事は長い人生で深いひと夏の経験でした。
 販売店の事務室の飲み残しのコーヒー牛乳は、過ぎ去っていく夏の寂しさを表しているようでした。
 真夏の朝の青空の真下で自転車に乗って牛乳を配達する麦わらの少女の姿はもう見られないのでした。


 (つづく)
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