『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「うん、常連になりそう。帰りにいくつかパンを買ってみようかな」

「そうしよう。そのクロワッサンもあるみたいだ」

 航生は、店内を見回している紗月に優しく声をかけた。爽やかな朝の空気に華やぎを添えるような穏やかな笑みは、光を受けたガラスのようにきらきらして見える。

 シンプルなシャツにパンツ、足元はスニーカーのカジュアルな服装でただ座っているだけで彼は自然と周囲の目を惹きつけていた。

(……ここの土地柄的にも、芸能人だと思われてもおかしくないだろうな)

 クロワッサンをもう一ひとかけ口に運びながら、紗月は少し遠い目にる。

 生活が落ち着いてきても、航生の紗月に対する態度は変わらなかった。むしろ、甘さが増しているのは気のせいだろうか。

 彼と生活を始めたころは、落ちていた食欲も、今ではすっかり戻って普通に食事ができるようになった。

 なにせ航生は、ことあるごとに紗月を外食へ連れ出したり、甘いものを買ってきたりするのだ。

 自分で作った料理でさえ、彼と一緒に食べると、不思議と美味しく感じられた。
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