『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 髪の毛を後ろで結んでいる今日の紗月。うなじが露になっていて、そのラインがやけに艶めかしい。

 航生とて健康な成人男性だ。愛する人と共に暮らし、同じベッドで密着して寝ていたら劣情を抱かないわけがない。その味を知っているからなおさらだ。

 しかし、自分の正体を隠し、欲望に流されたあの夜があったからこそ、航生はこれ以上紗月を裏切れないと己を律していた。

 紗月に本当の夫として受け入れてもらえるまで、手は出さない。

『ずっと夫婦でいてほしいなんて言わない。俺を好きになれないのもわかってる。それでもいいから、結婚してほしい』

 こう言って航生は紗月に迫り、結婚期間は航生が会社で地盤を固めるまでの二、三年と伝えた。期限を設けなければ、彼女が踏み切れないと考えたからだ。

 しかし、最初から航生は紗月を手放すつもりはなかった。今となっては彼女のいない未来に価値を見出せない。

 土方に言われたように拗らせている自覚もあるし、重い感情だと理解している。でも、紗月と生きる未来だけは、どうしても諦めきれなかった。

 紗月と真の夫婦になって、死ぬまで傍にいたい。

 ただ一つの願いを叶えるためにはどうしたいらいいか。航生は静かに考えていた。

< 160 / 235 >

この作品をシェア

pagetop