『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「課長に肩を触られただけ。たいしたことないから」

 気にしていないふりをして顔に笑みを張り付ける。

 すると大須賀は「たしたこと、あるだろ」と吐き捨て、こちらを真っすぐ見据えた。

「企業にはセクハラ相談窓口の設置が義務付けられている。エスカレートしないうちに対策した方がいい」

「相談かぁ……あまり、大ごとにしたくないな」

 正直、そこに割く時間や心理的負担を考えると面倒になってしまう。

「自分が我慢すればいいと思ってそういう人間を野放しにしておいたら、君だけでなく、他の女性も被害に遭うかもしれないぞ」

 的確な指摘に紗月はハッとする。紗月の部署には後輩の女性社員がいる。彼女には自分と同じ目に遭ってほしくなかった。

「ありがとう。うちの窓口がまともに機能しているか怪しいけど、相談してみる」

「ああ、そうしてくれ」

 大須賀は、安堵したようにうなずいた。

「聞いてくれてありがとう。こんな話、恥ずかしくて誰にもしてこなかったから、だいぶ、気が楽になった」

 肩から力が抜けると同時に、心地よい酩酊感が体全体を包んでいく。

(ああ……そういえば、島君にこんなふうに悩みを聞いてもらったな)
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