『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 紗月がその事実を知ったときには、叔父の消息はまったくわからなくなっていた。さすがの両親もこの時ばかりは相当ショックを受けていた。

 胸の奥が沈むような感覚に襲われる。それを紛らわせるように紗月はグラスに残っていた液体を一気に煽った。

「両親と協力して借金を返しているから、今の仕事を辞めるわけにはいかないの」

 両親は必要ないと言っているが、姉と妹と協力して毎月少しづつ返済に回してもらっている。

「……そうだったのか」

 大須賀は端整な顔を歪ませている。つまらない愚痴を聞かされているのに、こちらの気持ちに寄り添おうとする彼の心遣いがありがたかった。

「それにしたって、職場環境が悪すぎないか? このまま働き続けたら君が壊れる」

 熱心に心配してくれる大須賀の声が少し遠くに聞こえるのはだいぶ酔いが回ってきた証拠だろうか。

「大丈夫、ずっと同じように働いてきたんだから。来週からもがんばるし、多少のセクハラも我慢する」

「セクハラ?」

 大須賀の表情が、能面のように動かなくなる。余計な一言だったとすぐに後悔したが、口にしてしまった言葉はもう取り消せなかった。
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