『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 紗月が明るく取り繕うと、押し黙っていた大須賀がハッとしたように顔を上げた。

「――永井」

 突然呼び捨てにされ、紗月の心臓が跳ねる。その声が初恋の彼と重なったからだ。

(声なんてもう覚えてないはずなのに……)

 やはり酔いが回っているようだ。頭の奥がぼうっと熱を帯び、判断が鈍っていくのが自分でもわかる。

 向かいに座る彼をぼんやり見つめていると、伸びてきた手がテーブルの上で紗月の指先をふわりと包み込んだ。

「大須賀さん……?」

 名を呼ぶと、彼はわずかに口元を緩めた。

「もし、俺が君に惹かれてるって言ったら、どうする?」

「なに言ってるの。私たち、会ったばかりじゃない」

 反射的に言い返しながらも、手は引くことができない。彼の温もりが伝わってきて紗月の体温もじわじわと上っていく。

「それでも、だよ」

 穏やかな口調なのに眼差しは怖いくらい真剣だ。それに気づいた紗月の心臓は大きく跳ねた。逃げたい気持ちと、目を逸らしたらいけないような、相反する感覚に捕らわれる。

「あ、あの……」

 なにか言わなければと思うのに、言葉が形にならない。そんな紗月を遮るように、彼は声を落とした。
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