『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「名前? 航生、だよ。大須賀航生」

「大須賀、航生……」

 紗月は呆然としながら、オウム返しのように彼の名前を呟いた。

「もしかして……島君、なの?」

「眼鏡はないけど……こうしたら少しはピンとくる?」

 片手で髪を無造作に乱し、前髪を降ろすと背筋を丸めてみせる大須賀。その様子が記憶の中の航生と重なった。

「改めて久しぶり。十年ぶりだな」

 あまりの衝撃に声が出せない紗月に向かって、髪をかき上げながら大須賀は小さく笑う。

(……なんで、笑えるの)

 信じたくない、でも、目の前に立つのは間違いなく紗月の初恋の人、島航生なのだ。

「……ひどい」

 しばらく張りつめた沈黙が続いたあと、紗月はゆっくりと顔を上げた。驚きが引いた直後、胸の奥をえぐるような感情が一気に噴き上がる。喉が詰まり、ようやくこぼれた声は、自分でもわかるほど震えていた。

 あの居酒屋で紗月を助けたのは、偶然だったのかもしれない。だが、航生はすぐに紗月だと気づいたはずだ。そのうえで食事に誘い、距離を縮め、甘い言葉でホテルに誘い込んだのだ。

「ああ、俺はひどい男だ」
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