『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「足りなかったらごめん。じゃあ」

 そう言って、立ち去ろうとした紗月の手首を大きな掌が掴んだ。

「待ってくれ」

「離して!」

 動きを制された紗月は必死に腕を動かす。しかし力は強く振りほどけない。

「永井、聞いてくれ。俺は君にずっと会いたかったんだ」

「嘘、島君は私の顔なんて見たくなかったくせに!」

 紗月は声に任せて体を捩る。すると思いのほかあっさり腕が解放された。恐る恐る彼を見た紗月は息をのんだ。

(なんで、そんな辛そうな顔をするの)

 航生の整った顔は痛みを堪えるように歪んでいた。事実を言っただけなのに、なぜか彼を傷つけたような罪悪感を覚える。

「と、とにかく帰るから」

 勢いがそがれてしまった紗月に向かって、悲痛な表情のまま航生は声を落とす。

「信じてもらえないのは無理はない。でも、俺は永井を忘れたことはない」

「……忘れられないほど私が疎ましかったの?」

 自分が出した冷えた声に、自分が打ちのめされる。このまま彼とここにいたら心が持たなくなりそうだ。

「〝大須賀さん〟、昨日はありがとうございました。もう二度とお会いすることもないと思いますが、お元気で」
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