『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
(私、ずっと島君の迷惑になってたの……?)

 あまりのショックに言葉が出てこない。

 たしかに初め、勉強を教えてほしいと無理やり頼んだのは紗月だ。その後も受け入れてくれると思って彼に話しかけ、行動を共にした。少なくともいい友達にはなれていると思っていたのに。

 航生は紗月の存在を苦痛に感じていたのだ。兄に弱音を吐いてしまうほどに。弟を放っておけなかった理仁は、紗月に忠告するため動いたに違いない。

『ああ、あと、ちょっと言いづらいんだけど、航生は君に色目を使われているって……それも本当かな』

『色目……』

 困り顔になる理仁を前にサッと血の気が引く。表に出しているつもりはなかったけれど、航生に恋心が気づかれていたなんて。

 恥ずかしくて身の置き所がない。紗月はギュッと縮こまってテーブルの上のココアを見つめ続ける。

『航生は受験間近で、お母さんが大変な時期だろう。兄としてはわずかであっても負担を掛けたくないんだ……申し訳ないんだけど、わかるよね』

 やけに優しい口調で諭され、紗月は力なくうなずくしかできなかった。

『……失礼します』

 店を出た紗月は打ちひしがれながら緩慢に頭を下げた。
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