『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「べつに大した作業じゃないからいいけど、うちの部署、人が足りなさすぎるわよね。せめて人員があとひとり……いやあと五人は欲しいわね」

 紗月が冗談めかすと木村は「本当ですね」とため息をついて、帰っていった。

 職場の仲間たちは皆余裕がない。他人になど構っていられない空気が常に流れているのだが、紗月が指導担当をしていた彼女だけは、時間ができるとこうして話しかけてくれる。

 木村は学生時代から付き合っている彼との結婚に備えてお金を貯めたいと言っていた。だから、仕事がきつくても辞めずに頑張れるのだろう。

(課長があの子にセクハラでもしたら困ると思って、相談したのに……)

 木村を見送ったあと、紗月は昨日の出来事を思い出して、心を痛める。

 週開けすぐ、紗月は勇気を出して社内で定められているセクハラ相談窓口に連絡を取った。課長の行動が少しでも改善されればと希望をもったからだ。そして、聞き取り調査の名目で人事部長に呼び出されたのは昨日の昼休み。

『困るんだよねぇ。こういうの』

 開口一番人事部長にこう言われて、紗月は呆然とした。

『ちょっと肩を触っただけなんだろう。君の自意識過剰なんじゃないの』
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