『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
『もう、顔も見たくない』

 航生は、目を見開く紗月に向かって、これまで一度も聞いたことのないような冷たい声で言い放ち、そのまま教室を出ていった。

 大切に胸の奥で育ててきた紗月の初恋は、その瞬間、凍りつき――音もなく砕け散った。



 週が明け、またいつもの日々が始まった。

「永井さん、私、そろそろ帰りますけど……」

 二十時、紗月に声を掛けてきたのは、木村(きむら)という女性社員だ。この過酷な部署で辞めずに頑張ってくれている貴重かつ、根性のある三つ下の後輩だ。しかし、顔には疲労が色濃く出ている。

「私もあとは課長に共有すれば終わり」

 マウスを操作しながら、視線を向けると木村は苦々しい顔になった。

「その資料って、本当なら課長が取りまとめるものですよね。なんで永井さんばかり仕事回すんだろう」

 たしかに紗月が手掛けていた月報は本来、課長が課員の報告を取りまと上に報告するはずだ。しかし、坂本に『俺が慣れるまで、永井さん頼む』と押し付けられて半年、未だに紗月が作成している。
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