『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「うるさい! お前、余計なことを人事部長に言っただろう」

「え……」

(まさか、人事部長が課長に話したの?)

 相談窓口は秘密厳守ではなかったのだろうか。改めて、自社の社内コンプライアンス軽視に閉口する。

「少し触ったくらいで、お高く止まりやがって。減るもんじゃあるまいし、いいだろう」

 どこを切り取ってもセクハラでしかない台詞に軽く眩暈がしてきた。

「課長、本当にいい加減にしてください」

 すると坂本の顔がニヤリとする。

「そうやって、強がって真面目ぶってる女ほど、男に落ちたら従順になるんだよなぁ」

 さらに一歩近づかれて、紗月の背筋に悪寒が走る。会社の近くではあるが、ちょうど暗がりで人通りがほとんどない。でも、大声を出せば気づいてもらえるかもしれない。

「どうせ、仕事ばかりで男のひとりもいないんだろう? それじゃつまらないじゃないか。お互い割り切って楽しめばいい。悪いようにはしない」

 坂本の手がぬっと伸びて紗月の腰に触れようとする。

 大声を出そうと息を吸ったのと同時に、目の前に大きな体が割り込んできた。

(え、なに?)
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