『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 零れ落ちそうなほどに目を見開いた紗月は、お腹の底から声を出す。車内に叫び声が響き、紗月は慌てて口を噤む。

「えっ……と……よくわからないんだけど」

「突拍子ないって自覚はある。でも、本気だ。結婚してほしい」

 小声になった紗月に航生はもう一度繰り返す。

「ちょ、ちょっと待って、どうしちゃったの」

 どうやら自分はプロポーズされたらしい。十年前に『顔も見たくない』と言われたきり、一度も会わなかった同級生に。

 客観的に現実を把握し、紗月の感情がスッと冷める。

(そうか、また揶揄われてるんだ)

「悪い冗談よね。私たち、十年ぶりに再会したばかりだし、そもそも……私はあなたに嫌われてたはずでしょ。もし、面白がってるんならやめてほしい」

 一瞬ドキリとしてしまった自分に羞恥を覚えながら、紗月は視線を膝に置いた手に落とす。

「面白がってなんかいない。それに俺は、君を嫌ってなんていなかった」

「私、知ってるの。あなたが私につき纏われて嫌な思いをしてたって」

 紗月は俯いたまま声を絞り出した。辛い思い出だがはっきりしておくべきだった。

「つき纏われた? 違うんだ、あれは……」
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