『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「お義父さん……ありがとうございます」

 航生は背筋を伸ばしてもう一頭を度下げたあと、表情を和らげた。

 
「お疲れ様。質問攻めで大変だったでしょう」

 永井家での挨拶を終え、夕食で母の手料理を囲んだあと、紗月は航生の車で自宅まで送ってもらっていた。

 あのあと、女性陣から勤め先や趣味や好きな食べ物まで根掘り葉掘り聞かれた航生だったが、すべて無難に答えていた。

 馴れ初めについては、高校時代の友人で偶然再会したと説明し、紗月も口裏を合わせた。嘘はついていない。それが一週間前とは言わなかっただけ。

 航生は、自身の出自についても正直に話していた。親との関係が一般的な家庭とは異なるのも含めて。そうした事情から、婚姻届は提出するものの、結婚式についてはもうしばらく様子を見てから挙げたいと説明していた。きっと紗月の家族を納得させるための方便なのだろう。

 ひとしきり歓談したあと、エステサロンに勤務している琴葉は夕方からのシフト、乃愛はデートで出かけて行った。そのタイミングを見計らって航生は両親に切り出した。

『借金の件、紗月に聞きました』
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