主人公なんかじゃない

6・たすけて赤染くん②

 ……
 …………
 ………………

「わぁびっくりした!」

 赤染くんの声に、私の意識がはっきりする。どうやら、『カラリス☆ステージ!』の物語の中に来ることができた……?
 まだ、『カラリス☆ステージ!』の世界に来られたんだ。うれしい反面、拒否されたらどうしようっていう恐怖心がわく。
 おそるおそる、目を開く。
 目のピントがあって、目の前の赤染くんの姿を見つけたんだけど……。

「きゃー!」

 赤染くんの顔が、まっしろ!
 どうして? 病気? なんで?
 私があぜんとしてかたまっていると、赤染くんはあはは、と笑った。

「これ、パックだから」

 赤染くんは、顔にはりつけたフェイスパックをぺろんとはがした。

「あ、そうか、そうだよね……びっくりしちゃって……」

「びっくりしたのはこっちだよ」

「ご、ごめんさい。いきなり来て」

「いつも、俺が眞緒ちゃんの家に勝手にあがりこんでいるわけだから、おあいこだね」

 赤染くんは明るく言う。怒ってはいないし、私に会いたくなかったわけでもないみたいで安心した。
 はがしたフェイスパックをたたんで首筋に塗りながら、赤染くんがにこにこと私を見ている。
 今日は、部屋着だった。上下グレーのよくあるスウェットだけど、それすらもかっこよく着こなしている。

「ごめんね、リラックスしている時間に」

「ううん、さっき帰ってきて、シャワーを浴びていたんだ。さっぱりしたら眞緒ちゃんのところに行こうかと思って」

 ふわっと、せっけんの香りが鼻をくすぐる。
 赤染くんの部屋の片隅には、キャリーバッグが置いてあった。家に戻ってきたばかりなのかも。

「来てくれてうれしいよ。やっぱり、女の子の部屋に勝手に行くのは気が引けるって言うか、ためらうというか」

 ね、と首をかしげて私を見る。そのしぐさがもう、アイドルすぎる!
 でも、今日の私はなかなか笑顔を作れなかった。いつもなら、ニヤニヤしていただろうけど。
 元気のない顔を見て、赤染くんが真顔になる。

「どうかした? 元気ないみたいだけど」

「えっと……」

 赤染くんに言ってもいいものか。
 私はずっと後悔していた。リカコに本当のことを言えなかったせいで、イヤな思いをさせたことを。
 もしあのとき、物語の中に行けることを説明していたら……リカコは悲しまなかったんじゃないかって。私が「赤染くんに会ってほしくない」と思ったせいで、誤解されてあんなに悲しい顔をさせてしまったんじゃないかって。
 だから、今は。赤染くんにちゃんと話そう。
 笑われてもいい、赤染くんを悲しませたくないから。

「あのね、私の友だちのリカコ……『ひまわりダイアリー』の主人公の、リカコ。ケンカしちゃって」

 私は、いきさつを赤染くんに話した。
 本を手に取られて、思わず奪い返してしまったことを。

「カラリスとリカコ、どっちが大切か聞かれても答えられなかったの。でも、比べるものじゃない。リカコは三次元に生きる大切な友だちで、カラリスは二次元で生きる大切な希望で。ぜんぜんちがうものだけど……」

 私は、ふぅ、とひと息ついた。

「物語の中で、ほんものの赤染くんと出会ってしまって。私にとって、赤染くんも三次元の大切な人になってしまって」

「うん」

「ほんとうのことを話して、笑われたくなくて」

「そうだね」

「リカコが赤染くんのこと、好きになったらイヤだって思って」

「うん……?」

「赤染くんのこと、ひとりじめしたくて」

「……」

「『カラリス☆ステージ!』の物語の中に来て会ったら、赤染くんが、リカコのことを好きになるかもしれない。ううん、もとからリカコのことが好きなんだろうけど、実物を見たらさらに好きになっちゃうかもしれない」

「……」

 赤染くんは、黙ってしまった。
 はずかしいことを言ってしまったけど……でも、いつかは知る事実だろうから。だったら今、赤染くんを傷つけないために、正直に……。
 私は、引き続きヤケになった気持ちのまま、自虐的に言葉を続ける。

「分かっているよ、赤染くんの気持ち」

「え、俺の気持ちなんて話したことあった?」

「言ってないけど……きっとそう。リカコはすごくすてきな女の子だから」

「待って待って、聞いて!」

 赤染くんは、私の顔を至近距離でのぞきこむ。
 きれいな瞳が、少し怒ったようにゆらめく。
 あれ、傷つけた……? 傷つけないように、ほんとうの気持ちを話したのに。

「俺、『ひまわりダイアリー』は好きだよ。おもしろい小説だと思う。けど、眞緒ちゃんが言う「好き」はそういう意味じゃないよね?」

「うん、恋愛対象として、って意味だけど……ちがう?」

「ちがうよ」

「あ、そうなんだ……でも実物を見たら好きになるかもしれないし」

「どうだろう。無いんじゃないかな」

「リカコのほうが、赤染くんを好きになるよ。赤染くんもすてきな男の子のだから」

「それも……無いんじゃないかな。ここにはほかのメンバーもいるし」

「だって赤染くんはかっこよくてやさしくて気が利いて頭がよくてアイドル性も高くて……だれだって好きになるよ!」

 私が熱弁すると……赤染くんは顔を赤くした。

「そ、そんなにほめてくれるの?」

「赤染くんは……赤染くんは……」

 これ以上、なにを言っていいかわからなくなってしまった。

 私は、私が思うより赤染くんのことが……好きなのかもしれない。

 それに気が付いてしまい、急にはずかしくなる! すごいことを言ってしまった!
 相手は、アイドルの男の子なんだよ!?
 顔が急に熱くなってくる。
 私みたいな一般人が、こんなことを言うなんて、よくないよね?

「と……とにかく! 私の勝手な気持ちで、リカコを傷つけてしまったの」

「そ、そうだね。とりあえず落ち着いて、ね」

「うん……」

 座って、落ち着いて話をすることに。

「この前、赤染くんがメンバーのことを信じてほんとうのことを話すって言ったのに、私は言えなくて……」

 はぁ、とため息がもれる。

「私、リカコのこと信じてないのかな」

「それは、ちがうよ」

 赤染くんの強い言葉に、顔をあげる。
 真剣な表情で、私を見つめている。

「俺は、メンバーを信じているって言ったけど……ごめんね、言い方が悪かった。人として信じているっていうか……こういうノリを分かってくれるっていう意味で信じていたってこと」

「ノリ?」

「物語の中を行き来できるって言ったら、みんな単純だから信じてくれそうって意味で、信用している。でもリカコちゃんやほかの人は……単純じゃなさそうだし、やっぱりうたがうと思う」

 信じる・信じないって、そんな単純なことじゃないんだね。
 むずかしくって、よくわからないけど……。

「メンバーみんな、単純でかわいいヤツだからね。ミナトはすぐには信じないかもだけど、ほかの三人が信じたら、たぶん信じちゃう。そういう信頼はある。それだけだよ」

 呆れたように笑う赤染くん。

「だから、無理して話さなくてもいいと思うんだ。眞緒ちゃんがそう思うなら、きっとそれが正しいんだよ。相手によって態度を変えるのはよくないっていうけどさ、俺は必要なことだと思う」

 赤染くんは、真剣な顔で言う。

「そっか……けど……」

「カラリスとリカコちゃんのどっちも、種類はちがうけど大切っていう話で……比べるものじゃない、リカコちゃんも大切な友だちなんだってことを、伝えたいわけだよね?」

「うん。あと、赤染くんのこと、好きにならないでほしい」

「それは……だいじょうぶだと思うから、俺を信用してほしいかな」

 信用。なにを根拠に言っているかわからないけど、赤染くんのこと、信用するしかなさそう。

「信用、します」

 赤染くんは、ふーむ、と腕を組んで考え事をしはじめた。

「よし、俺にまかせて!」

「え、どうやるの?」

「こういうときこそ、アイドルであることを活用しなくちゃね」

 赤染くんが、私にむかってウィンクをした。

 あ――――………………

 危ない、すてきすぎて失神するところだった!
 赤染くんのウィンク、イラストでしか見たことなかったから……すごい威力!
 私は、胸のドキドキを手でおさえる。おさまらないけど!
 それにしても、どうやってリカコを納得させることができるんだろう?
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