これは果たして恋なのか。
 無意識のうちに、記憶の中の自分と今を見比べた。

「髪伸びてきたかも。そろそろ切ろっかな」

 蒼の手が一瞬止まる。

 ───あ、ミスったかも。

 口に出すつもりはなかったのに。
「…まだ、王子さま続けんの?」

 大きく響くドライヤーの音に、蒼の声が混じる。いつもとは違ってどこか弱々しく聞こえた。

 心の中で謝り、わたしは努めて明るく返した。

「まあまだしばらくはね」
「俺のせいだ」

 心臓が跳ねた。

…今、なんて言った?
「俺は…、俺が、雛菊の髪を切ったから。」
「…蒼」

 蒼は呼び掛けに答えない。声が震えている。いつもの蒼らしくない。
 鏡に写る蒼は俯いているせいで、前髪が邪魔して顔が見えない。

「あの時、止めなくてごめん。今思えば、俺がもっと傍にいればって…、俺、おれが、雛菊から、 ”お姫様”の───」

「蒼!!!」

 わたしは振り返って叫んだ。耐えられなかった。蒼はビクッとしてわたしを見た。
 つけっぱなしのドライヤーがうるさい。

────あぁ、なんて顔をしているの。

「蒼のせいとかじゃない!むしろ逆。
 わかってるでしょ、蒼があの時のわたしを救ったの!!私を救っておきながら、それを勝手に後悔するなんて許さないから!!」

 一度に大声で叫んだせいで、息切れした。

 ゴホゴホ咳き込むわたしを、放心状態だった蒼が手を伸ばして支えてくれた。
「…、雛菊!大丈夫か?」

───信じられない。わたしは蒼に後悔させていたのか。もしかして、”あの日”からずっと―?
 
 涙がじわっと滲んだ。

 情けない。本当に情けない。蒼にそんな思いをさせていたことも、苛立ちを蒼にぶつけたことも。

 最低だ。

 わたしは涙目を見られないよう俯いたまま話した。
「大丈夫。ごめんね。ドライヤーもありがとう。ほんとごめんね」

 わたしはそのまま自分の部屋に駆け込んだ。
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