VOICE

そして中学2年生・・・夢みたいな一日

我が校サッカー部の中で一番走ってるのは菊田先輩だ。


すらっとした背に長い褐色の手足、それを必死で動かしてボールを追いかける。


不思議とボールも菊田先輩の足に吸い寄せられるように引きつけられ、


面白いくらいゴールネットへ運ばれてしまう。


三階にある自分の教室からそれを眺めるのが好きだった。


先輩との接点なんか望んでないし、ただただ眺める日が一日でも多ければ


満足だった。


それなのに、今、大変なことが起きている。


あの菊田先輩が私の真横にいる。


「花村さんだよね! 短歌よかったよ。優勝おめでとう」


夏休みの課題で提出した短歌がたまたま優勝し、今朝表彰された。


菊田先輩は、その短歌を読んでものすごく気に入ってしまったそうだ。


「救われたんだ、俺。あの歌に」


特別なことを詠んだわけじゃない。


友達とケンカして、後悔したことをそのまま歌にしただけ。


「あの歌で思い浮かんだんだ。夕焼けの中の川沿い公園」


ふわっと笑った先輩の目尻のシワが、私の胸を締め付けた。


ピンポイントで、あの歌の場所を当てるなんて怖すぎる。


「今度、一緒に行こうよ」


全部見透かされているようで怖くなったのはほんの一瞬だけ。


先輩に誘われて断る理由なんて全然思いつかない。
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