極甘社長にほだされても二度と秘書はやりたくない
1.人違いです
(次は絶対に、平穏に、穏便に、静かに暮らしていくんだから……)
新宿西口を抜けて目的のビルに入った。エレベーターに乗って目的の回数を押す。
転職初日、ヘマはしてはいけないと背筋を伸ばした。
「坂井陽香です。人事の仕事は未経験ですが、みなさんに教えてもらいながら早く独り立ち出来るように頑張ります。よろしくお願いします」
自己紹介をして頭を下げると拍手がまばらに聞こえてくる。掴みは問題なかったようだ。キャリーケースを持って出社してきたことには驚かれたが、詳細は伏せて土日に旅行に行くと告げると嫌な顔はされなかった。
「それじゃ坂井さんの席はそこね。これから入社にあたって書類を書いてもらうんだけど、今後はこのあたりの仕事も坂井さんにお願いすることになると思うから……」
先輩社員の山田さんが書類を出しながら説明してくれる。通勤経路の書類や退職金についての書類など書く物はたくさんある。
少しずつでも仕事覚えていこうと心機一転ボールペンを握り、ふりがな欄に「さかい」と書いたところで、ドタバタと足音が聞こえてきた。
「おはようさん、新しい秘書の子もう来た!?」
足音のあとにゴロゴロとキャリーケースの音が聞こえてきてはっと顔を上げた。
「社長、おはようございます。あの、秘書の人は……」
山田さんが立ち上がって挨拶をすると「社長」と呼ばれた男性と目があった。その男性には見覚えがある。結局面談はしなかったけれど、面談前にウェブサイトで見た「藤沢社長」本人だ。
偉い人には関わりたくないと思っていても、さすがに初対面で挨拶をしないわけにもいかないと私も立ち上がった。
「は、初めまして。本日から入社の坂井で」
す、と言おうとしたところで突然腕をつかまれた。
「良かった。新しい秘書の子きてくれたんだ。あ、キャリーまで持ってきてもらって、出張の用意もバッチリだね。連絡行ってたみたいで良かった」
「えっ……あの、私秘書じゃなくて……」
「社長、坂井さんはその……」
「それじゃ行ってきます! 山田さん、何かあればメールか電話入れてね!」
「い、行ってらっしゃい……」
「え、や、山田さん……!?」
「君もキャリー持って。東京駅までタクシーでいくからついてきて」
(ちょ、なんでこんなことになってるの……!?)
何も反論をする間も与えてもらえず、私はただ藤沢社長のあとを追いかけていくしかないのだった。
新宿西口を抜けて目的のビルに入った。エレベーターに乗って目的の回数を押す。
転職初日、ヘマはしてはいけないと背筋を伸ばした。
「坂井陽香です。人事の仕事は未経験ですが、みなさんに教えてもらいながら早く独り立ち出来るように頑張ります。よろしくお願いします」
自己紹介をして頭を下げると拍手がまばらに聞こえてくる。掴みは問題なかったようだ。キャリーケースを持って出社してきたことには驚かれたが、詳細は伏せて土日に旅行に行くと告げると嫌な顔はされなかった。
「それじゃ坂井さんの席はそこね。これから入社にあたって書類を書いてもらうんだけど、今後はこのあたりの仕事も坂井さんにお願いすることになると思うから……」
先輩社員の山田さんが書類を出しながら説明してくれる。通勤経路の書類や退職金についての書類など書く物はたくさんある。
少しずつでも仕事覚えていこうと心機一転ボールペンを握り、ふりがな欄に「さかい」と書いたところで、ドタバタと足音が聞こえてきた。
「おはようさん、新しい秘書の子もう来た!?」
足音のあとにゴロゴロとキャリーケースの音が聞こえてきてはっと顔を上げた。
「社長、おはようございます。あの、秘書の人は……」
山田さんが立ち上がって挨拶をすると「社長」と呼ばれた男性と目があった。その男性には見覚えがある。結局面談はしなかったけれど、面談前にウェブサイトで見た「藤沢社長」本人だ。
偉い人には関わりたくないと思っていても、さすがに初対面で挨拶をしないわけにもいかないと私も立ち上がった。
「は、初めまして。本日から入社の坂井で」
す、と言おうとしたところで突然腕をつかまれた。
「良かった。新しい秘書の子きてくれたんだ。あ、キャリーまで持ってきてもらって、出張の用意もバッチリだね。連絡行ってたみたいで良かった」
「えっ……あの、私秘書じゃなくて……」
「社長、坂井さんはその……」
「それじゃ行ってきます! 山田さん、何かあればメールか電話入れてね!」
「い、行ってらっしゃい……」
「え、や、山田さん……!?」
「君もキャリー持って。東京駅までタクシーでいくからついてきて」
(ちょ、なんでこんなことになってるの……!?)
何も反論をする間も与えてもらえず、私はただ藤沢社長のあとを追いかけていくしかないのだった。
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