極甘社長にほだされても二度と秘書はやりたくない
あのあと異動を承諾する意思を伝えて、正式に取締役社長付け秘書となった。二宮さんの引き継ぎはとても分かりやすかった。もちろん以前秘書をしていたからというのもあるけれど、とにかく資料のまとめ方が綺麗でまだまだ学ぶところはあるなと実感した。
予定通り、2週間の引き継ぎを終えると二宮さんは退職した。
(二宮さんのドレス姿、綺麗だったなぁ……)
長い付き合いの二人だけあって、式はとても和やかに進んでいった。藤沢さんの恋人というだけで列席させて貰うのは少し気が引けたけれど、幸せをお裾分けしてもらえたのは嬉しかった。
「坂井さん、来週の訪問の件なんだけど……」
「あ、はい。こちらに資料まとめてあります。それと会食の件ですが先方の好みに合わせてイタリアンのお店手配しておきました」
「あぁ、ありがとう」
ぼうっとそんなことを思い出していると話しかけられて慌てて答えた。
そもそも藤沢さんは割となんでも自分でやるタイプの人なので、秘書として手間がかからないと言うと問題だがありがたいことは確かだ。
「当日は私も同席しますが、店の情報先に送っておきます」
「うん、ありがとう」
「では失礼します」
「あ、陽香」
用事だけ伝えて自席に戻ろうとすると呼び止められる。席をたった藤沢さんが私の方へ来ると、頬を包み込んで触れるだけのキスをしてきた。
「し、仕事中です!」
「ふふ、社長と秘書が同じ部屋にいたって何もおかしくないでしょ? 誰も気にしてないって」
「公私混合は良くないと思います……」
結局、今も藤沢さんの家に住み続けている。姉には「まぁ帰る場所はあるんだからどーんといきなさい」とエールを送られた。相変わらず豪快な姉ではある。
「あ、そうだ。土日にベッド届くから、これからは一緒に寝られるね」
「っ、だから! 今言うことじゃないと思いますけど……」
耳元で囁かれて、心臓が大きく音を立てた。
隙あらばそういうことをしてくる藤沢さんといるといくつ心臓があってももたない気がする。
「あぁ、それと今度宮川たちの結婚式もあるんだよね。上司としては嬉しいけど、寂しいなぁ~」
「あ、今野さんにドレスの試着見せて貰いました。綺麗でしたよ」
一緒に仕事をしてから今野さんとは仲良くしてもらっている。時々一緒にランチにいったては宮川さんの愚痴を聞かされるけれど、二人の間には見えない信頼がある。とても羨ましい間柄だ。
「というわけで、そろそろ俺達のことも考えないとね? お姉さんにもまだ会えてないしなぁ」
「すみません、またスケジュール確認してみます」
「いいよ。今の生活も楽しいからね」
平穏に、静かに暮らしていくと決めてアルカトラズに入社したことが懐かしく思えてくる。
でも、今はそれでいいと思える。
「あ、プロポーズはちゃんと別にするから、楽しみにしてて」
「それ、今、言います……?」
「ふふ」
楽しそうに笑う藤沢さんがまた触れるだけのキスをしてくる。
くすぐったさを覚えながらも、甘やかしてくれる藤沢さんにすっかり絆されてしまった。
それに気付きながらも、私はまた秘書として働いている――。