愛なんて要らないから
「美羽ちゃんを初めて見た時、綺麗な子だなって思ったのと同時に、今にも消えちゃいそうだって思った」
皓太さんは私の髪に手を伸ばし、優しく撫でると、目尻を下げて切なげに笑った。
「親友が命を断つ時と同じ目をしていた美羽ちゃんのことを放っておけなかったっていうのが、最初に声をかけた時の正直な気持ち」
「確かに私はあの日……人生のどん底にいました。彼にプロポーズされると思って待ち合わせ場所に行ったら、彼の婚約者だという人から電話が来て、彼は交通事故に遭ったと聞かされて」
萌ちゃんからの電話を切った後、レストランの目の前にあった小さなバーをみつけて、ふらりと足が動いてバーの扉のドアノブに手をかけた。
チリン、と可愛らしく鳴ったベルに出迎えてもらって、あの穏やかなバーの空間に入った時、少しは心が落ち着いたと思ったけど。
皓太さんの目は誤魔化せなかったみたいだ。
いや、誤魔化せてなかったのは彼だけじゃなくて……。
「もう、人生どうでもいいやって。お酒の力で全部忘れられたりするかな、なんて思って初めてバーに入ってみたんですけど、陽さんが入れてくれたカクテルはノンアルコールだったんですよね」
陽さんのことも誤魔化せていなかった。
あの日の私の気持ちを理解していた陽さんがお酒に飲まれないよう配慮してくれていたのだと知ったのは、次の日の朝。
朝起きて隣にはもう皓太さんの姿はなくて、一人残されたままのホテルのベッドで昨日飲んだお酒のことについて調べたから。