愛なんて要らないから


 脳死という言葉が、ズンっと重く心臓に突き刺さって、何も言えないまま妹さんの後ろを付いていく。

 迷路のように広い病院内を歩き、妹さんが足を止めた先にあった扉の入口には、悠の名前が書かれていた。

 私はしばらくその名前の書かれたプレートから目を離すことができなかった。


 本当に、悠はここにいるんだ。

 どこかまだ、悠が病室で眠っていることを信じたくない気持ちがあったけど、受け入れるしかないという現実に胸が苦しくなった。


「大丈夫、ですか?」

 心配そうな顔をした妹さんに声をかけられて、私はハッとした。

 辛いのは、私だけじゃない。妹さんだって辛いはずなのに、私が彼女に心配をかけてしまうわけにはいかない。


「……大丈夫です。悠さんに会いたいです」

 気持ちを持ち直してそう告げると、妹さんは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。どうぞ」

 妹さんが、ゆっくりと病室の扉を開けた。

「俺はここで待ってるから」

 そう言った皓太さんに私は静かに頷いて、病室に足を踏み入れた。


 病室の中に入ると、そこにはたくさんの機械に繋がれて眠っている人の姿があった。

 無機質な機械音だけが鳴り響く部屋。

 その中をゆっくりと進むと、綺麗な顔をして眠る悠がいた。


「はる……」

 そっと、悠の頬に手を伸ばす。

 頬に触れても、少しも反応することのない悠の姿に胸が締め付けられた。




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