愛なんて要らないから


 脳死という言葉が、ズンっと重く心臓に突き刺さって、何も言えないまま妹さんの後ろを付いていく。

 迷路のように広い病院内を歩き、ある扉の前に辿り着くと入口には悠の名前があって、私はしばらくその名前から目が離すことができなかった。


 本当に、悠はここにいるんだ。

 どこかまだ、悠が病室で眠っていることを信じたくない気持ちがあって。

 だけど、受け入れるしかないという現実にまた胸が苦しくなった。


「大丈夫、ですか?」

 心配そうな顔をした妹さんに声をかけられて、私はハッとした。

 辛いのは、私だけじゃない。

 妹さんだって辛いはずなのに、私が彼女に心配をかけてしまうわけにはいかない……。


「……大丈夫です。悠さんに会いたいです」

 気持ちを持ち直してそう告げると、妹さんは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。どうぞ」

 妹さんは、病室の扉をゆっくりと開けた。

「俺はここで待ってるから、ゆっくり会っておいで」

 病室に足を踏み入れようとした時、そう言った皓太さんに私は静かに頷いた。


 病室の中に入ると、そこにはたくさんの機械で繋がれて眠っている人の姿があった。

 無機質な機械音だけが鳴る部屋。その中をゆっくりと進むと、綺麗な顔をして眠っている悠がいた。


「はる……」

 そっと、悠の頬に手を伸ばす。

 頬に触れても、少しも反応することのない悠の姿に胸が締め付けられた。




< 37 / 63 >

この作品をシェア

pagetop