愛なんて要らないから
「は、る……?」
そんなわけ、ない。
そんなわけないのに……。
何故、アゲハ蝶に向かって悠の名前を呼んでしまったのかは分からないけど、このドキドキする気持ちを私は知っている。
胸がドキドキして、止められなくて、じわりと身体が熱くなるような、そんな感覚。
これは悠と会社の研修で再会したあの時と、同じ。
アゲハ蝶がとまっている手をゆっくりと自分の方に引き寄せるけど、蝶はそのまま私の指先にとまっている。
真っ黒で艶のあるそのアゲハ蝶はまだ羽化したばかりなのか、今まで見てきたどんな蝶よりも綺麗だった。
あまりに綺麗でしばらく見惚れていると、アゲハ蝶はふわりと羽を動かし、私の頬に軽く触れてから空へと飛び立っていった。
「あ……っ、待って……!」
飛んでいって欲しくなくて再び手を伸ばすけど、アゲハ蝶は遠い空の向こうに行ってしまって、姿が見えなくなってしまった。
「アゲハ蝶は、亡くなった人の魂を案内しているって言われてるの知ってる?」
「……え?」
「悠くんが会いにきてくれたのかもね」
皓太さんは、とても優しい眼差しでアゲハ蝶が飛んでいった先を見つめていた。