ココロホームへようこそ
十五分ほど経った頃、額の汗を制服の袖で拭いながら、カイジくんが少し息を切らせて入店してきた。どうやら駅からここまでずっと走ってきてくれたらしい。
「遅れました……」
「遅いぞ、カイジ!」
「おつかれー」
「汗だくじゃん!」
ゼェハァと肩で呼吸し、ようやく呼吸を整えて腰を下ろした。
それにしても……私は彼の姿を見て、心の中でそっと目を見張る。
学校の制服の上から、いつものあの真っ白な白衣をきっちりと羽織っているのだ。てっきりホームでの私服の時だけのこだわりかと思っていたけれど、外でもそれは変わらないらしい。ジャケットを羽織っていないのがまだ救いか。
「ねぇ、カイジくん……その白衣、さすがに暑くないの?」
素朴な疑問が口をついて出た。カイジくんは首を少しだけ傾げ、「いえ、別に。生地が薄いのでそこまで暑くないですよ」と涼しい顔で答える。
だが、その言葉とは裏腹に、店員さんが運んできてくれたお冷やのグラスを掴むと、中の氷水を一気飲みしていた。やっぱり普通に暑いんじゃないか。
「それじゃあ、ウチこのパフェ」
バッと勢いよくメニュー表を開くと、心乃ちゃんは大きく掲載されたパフェの写真を、目を輝かせて見つめた。
背の高いガラスの器に、層になった色とりどりの世界。
一番上には、こんもりと盛られた真っ白なホイップクリーム。その上にちょこんと乗った赤いさくらんぼが輝いている。
その周りには、カットされたいちご、キウイ、オレンジ、バナナ。
それぞれが宝石みたいにキラキラしていて、光を受けてみずみずしく輝いていた。
美味しそうだけど、お昼ご飯の時間をすっ飛ばして、いきなり主食をデザートにするあたりがいかにも心乃ちゃんらしい。
「私は、ナポリタンかな〜」
おすすめメニューの筆頭に載っていた、昔ながらのナポリタンの写真を指差す。
ナポリタン。それはトマトソースとピーマン、玉ねぎが鉄板の上で極上のハーモニーを奏でる傑作。
パスタの本場イタリアの料理かと思われがちだが、実は日本で生まれ育った独自の洋食文化なのだ。
ちなみに四月二十九日はナポリタンの記念日だったりする。
あぁ、考えただけで、脳内のテーブルの上を真っ赤なトマトの妖精が楽しげに踊り狂っているよ……。
いや、本当にトマトの妖精がくるくるとワルツを踊っている。
これは夢!?頬をつねってみたが、痛い。夢じゃない!
「理世くん、ナポリタンは売り切れだぞ」
「……え?」
隣から清次郎くんにポンポンと優しく肩を叩かれ、私はハッと我に返った。
メニュー表を穴が開くほど見つめ直すと、そこには確かに、小さな赤いインクで『本日売り切れ』の文字がスタンプされていた。
「う、うぇっぐ……」
あまりのショックに、べしょぉとテーブルに突っ伏して涙を流す。
「あ、消えた」
心乃ちゃんがぽつりと呟いた。
悲しすぎてトマトの妖精が消えたのだ。
私はぐすぐす鼻をすする。
目の前のテーブルには、現実のナポリタンの姿はなく、メニュー表とお冷やだけ。
「ほら、他にも美味しいものあるから……元気出せ」
「珍しいですね。最近は妄想を作り出すことはなくなったのに」
「ナポリタン、余程嬉しかったんだろうな」
みんなに苦笑いされながら、私はメニュー表をちょっと恨めしげに睨みつけ、代わりに濃厚そうなカルボナーラを注文することにした。
それぞれ注文した料理が届き、いただきますをして食べ始める。
清次郎くんはマカロニグラタン。
カイジくんはデミグラスオムライス。
テーブルの上に、それぞれの料理が並ぶ。
さっきまで売り切れに絶望していたのが嘘みたいに、目の前はごちそうでいっぱいだった。
「これ食べ終わったら、ちょっとショッピングモール行こ」
「良いですね」
心乃ちゃんの案内でショッピングモールにつくと、あまりの大きさにテンションが少し上がってしまう。
「こんなに大きいショッピングモール、初めて来たかも」
「結構色んな店あるよ」
「ふっ、外界は相変わらず民草で騒がしいな!この繁栄もオレの家のお陰なのだよ!」
「広いですね」
清次郎くんの誇らしげな発言をみんなで適当に聞き流しながら、エスカレーターに乗って二階の衣料品フロアへと向かう。二階にはお洒落な服屋さんやファンシーな雑貨屋さんが所狭しと並んでいて、色んなお店をブラブラしながら歩いた。
普段、服なんてお母さんが買ってきたものをそのまま着るだけだから、自分でキラキラした服屋さんに入るだけでも心臓が緊張でバクバクしてしまう。
「これ可愛いじゃん」
心乃ちゃんが手に取ったのは、淡い水色の肩出しワンピース。
涼しげで、風が吹いたらふわっと揺れそうな軽い生地。
「可愛い!」
それから試着し、色違いのお揃いを買うことにした。
「せっかくですし、僕達も海に行く時用に、メンズのアロハシャツでも買いませんか?」
「そんなのも売ってるんだな!」
清次郎くんがきょろきょろと店内を見渡す。
その視線の先には、壁一面に並んだカラフルなシャツ達。
「海行く時に着よ」
心乃ちゃんが一枚引き抜いて、ぱっと広げた。
「うわ、派手」
「そこが良いじゃん」
確かに。
こういうのは、ちょっとくらい派手な方が楽しい気がする。
お会計を済ませて、店を出る。
「次、どこ行きます?」
カイジくんの問いに、心乃ちゃんが真っ先に手を上げた。
「ゲーセン行きたい」
耳をつんざくような電子音が脳を支配する。
日中なのに薄暗い店内だけど、蛍光の光があちこちで輝いていた。色取りどりの光と楽しげな音楽は勧誘するように心を踊らせる効果があり、ふわふわとした夢心地になる。
「そろそろクマ吉の友達でも増やしてあげようかなって思ったんだよねー」
「なるほど。そういうことでしたら僕も協力しますよ」
「わー、お菓子のタワーがある!」
「ゲーセン、初めて来た」
反応は三者三様。
心乃ちゃんとカイジくんはクマ吉の友達を取ろうと意気込み、私はお菓子コーナーを発見し、清次郎くんは初めて来るゲーセンを不思議そうに見渡していた。
「百円玉、良ければ僕のを使いますか?いつの間にか増えてしまって」
「カイジくん、甘やかさなくて良いよ。こんな時の為に両替機があるんだから」
心乃ちゃんは近場の両替機で泣く泣く五千円を千円札五枚に崩し、その千円を百円玉と両替する。
三千円分を両替して、みんなの待つゲーム機へと戻った。
透明なケースの中には、色とりどりのぬいぐるみやお菓子が山積みにされている。
「これに決めた!」
そう宣言し、百円玉を投入口に滑り込ませる。
私は自販機で買ったコーヒー牛乳を飲みながらの応援。
アームがぎこちなく動き、ぬいぐるみの耳をつまんで持ち上げる。
……が、穴の上であっさり落ちた。
「やっぱ操作感がシビアすぎる」
どんどん投入口に滑り込むお金達。
「理世も一回やってみて」
パッと振り向き、百円玉を押し付けてくる。
「いや、私は……」
「良いから一回!一回だけ!」
縋るようにせがまれ、渋々コインを投入し、操作レバーを操った。
右、奥。丁度良いとこで止める。僅かに震える手でボタンを押した。
今度は慎重に位置を調整して、ぬいぐるみの胴体を狙う。
ぐいっと持ち上がるクマ吉の友達候補。
アームはほんの一瞬だけ浮かせたが、そのまま落下。アームは元の位置に戻っていく。
「よし、理世も無理なら諦めよう!」
店内にはかなりの数のゲームが鎮座しており、大きいぬいぐるみを諦めた心乃ちゃんは次に、比較的小さめのショーケースの中に手のひらサイズのぬいぐるみが入っているのを発見する。
三本爪のアームで、制限時間内ならアームの位置を調整出来るタイプのものだった。
「これならいけそうじゃない?」
心乃ちゃんがしゃがみ込んで、ショーケースを覗き込む。
中にあるのは、手のひらサイズの小さなぬいぐるみ達。
さっきよりも軽そうで、いかにも『取りやすいですよ』って顔をして並んでいる。
「……そう見せかけて難しいやつでは?」
「いや、これは取れる」
強気だなぁ……。
心乃ちゃんは念を込めるように百円玉を入れて、プレイを始めた。慎重にアームを運び、ボタンを押した。
回転したアームが足の端を掴み、上手い具合に固定させた。
「あ、ちょっと取れそうじゃない?」
「お、上手く引っかかってる」
アームで運ばれたぬいぐるみは、そのまま落とされることなく景品獲得口に運ばれる。
喜びのあまり、心乃ちゃんは小さく飛び跳ねている。
「おめでと〜!」
「ふっ、良かったな!」
「お見事です」
ぬいぐるみを取り出して、高々と掲げる。
「クマ吉の友達ゲットー」
小さなクマのぬいぐるみ。 ちょっとだけ顔がゆるくて、なんとも言えない可愛さがある。
「名前どうするの?」
「んー……クマ吉の友達だから……」
少し考えてから、思いついたように手をポンッと叩く。
「クマ次郎!」
「安直すぎる!」
「せめてもう少しひねりましょうよ」
ツッコミが綺麗に重なった。
心乃ちゃんは気にした様子もなく、クマ次郎をカバンに大事そうにしまう。
「はぁー、楽しかった」
「私も楽しかったよ」
なんだか、この時間がずっと続けば良いのにって、少しだけ思った。
でも――
「そろそろ行きましょうか」
カイジくんが軽く伸びをしながら言う。
時間を確認すると、午後四時をまわっていた。そろそろ帰らないと夜ご飯の時間に間に合わないし、何より捜索されそうだ。
その一言で、ゆるやかだった時間が少しずつ動き出す。
楽しい時間は、どうしてこんなにあっという間なんだろう。
私は、まだ少しだけ名残惜しさを感じながら、みんなの後を追った。
「遅れました……」
「遅いぞ、カイジ!」
「おつかれー」
「汗だくじゃん!」
ゼェハァと肩で呼吸し、ようやく呼吸を整えて腰を下ろした。
それにしても……私は彼の姿を見て、心の中でそっと目を見張る。
学校の制服の上から、いつものあの真っ白な白衣をきっちりと羽織っているのだ。てっきりホームでの私服の時だけのこだわりかと思っていたけれど、外でもそれは変わらないらしい。ジャケットを羽織っていないのがまだ救いか。
「ねぇ、カイジくん……その白衣、さすがに暑くないの?」
素朴な疑問が口をついて出た。カイジくんは首を少しだけ傾げ、「いえ、別に。生地が薄いのでそこまで暑くないですよ」と涼しい顔で答える。
だが、その言葉とは裏腹に、店員さんが運んできてくれたお冷やのグラスを掴むと、中の氷水を一気飲みしていた。やっぱり普通に暑いんじゃないか。
「それじゃあ、ウチこのパフェ」
バッと勢いよくメニュー表を開くと、心乃ちゃんは大きく掲載されたパフェの写真を、目を輝かせて見つめた。
背の高いガラスの器に、層になった色とりどりの世界。
一番上には、こんもりと盛られた真っ白なホイップクリーム。その上にちょこんと乗った赤いさくらんぼが輝いている。
その周りには、カットされたいちご、キウイ、オレンジ、バナナ。
それぞれが宝石みたいにキラキラしていて、光を受けてみずみずしく輝いていた。
美味しそうだけど、お昼ご飯の時間をすっ飛ばして、いきなり主食をデザートにするあたりがいかにも心乃ちゃんらしい。
「私は、ナポリタンかな〜」
おすすめメニューの筆頭に載っていた、昔ながらのナポリタンの写真を指差す。
ナポリタン。それはトマトソースとピーマン、玉ねぎが鉄板の上で極上のハーモニーを奏でる傑作。
パスタの本場イタリアの料理かと思われがちだが、実は日本で生まれ育った独自の洋食文化なのだ。
ちなみに四月二十九日はナポリタンの記念日だったりする。
あぁ、考えただけで、脳内のテーブルの上を真っ赤なトマトの妖精が楽しげに踊り狂っているよ……。
いや、本当にトマトの妖精がくるくるとワルツを踊っている。
これは夢!?頬をつねってみたが、痛い。夢じゃない!
「理世くん、ナポリタンは売り切れだぞ」
「……え?」
隣から清次郎くんにポンポンと優しく肩を叩かれ、私はハッと我に返った。
メニュー表を穴が開くほど見つめ直すと、そこには確かに、小さな赤いインクで『本日売り切れ』の文字がスタンプされていた。
「う、うぇっぐ……」
あまりのショックに、べしょぉとテーブルに突っ伏して涙を流す。
「あ、消えた」
心乃ちゃんがぽつりと呟いた。
悲しすぎてトマトの妖精が消えたのだ。
私はぐすぐす鼻をすする。
目の前のテーブルには、現実のナポリタンの姿はなく、メニュー表とお冷やだけ。
「ほら、他にも美味しいものあるから……元気出せ」
「珍しいですね。最近は妄想を作り出すことはなくなったのに」
「ナポリタン、余程嬉しかったんだろうな」
みんなに苦笑いされながら、私はメニュー表をちょっと恨めしげに睨みつけ、代わりに濃厚そうなカルボナーラを注文することにした。
それぞれ注文した料理が届き、いただきますをして食べ始める。
清次郎くんはマカロニグラタン。
カイジくんはデミグラスオムライス。
テーブルの上に、それぞれの料理が並ぶ。
さっきまで売り切れに絶望していたのが嘘みたいに、目の前はごちそうでいっぱいだった。
「これ食べ終わったら、ちょっとショッピングモール行こ」
「良いですね」
心乃ちゃんの案内でショッピングモールにつくと、あまりの大きさにテンションが少し上がってしまう。
「こんなに大きいショッピングモール、初めて来たかも」
「結構色んな店あるよ」
「ふっ、外界は相変わらず民草で騒がしいな!この繁栄もオレの家のお陰なのだよ!」
「広いですね」
清次郎くんの誇らしげな発言をみんなで適当に聞き流しながら、エスカレーターに乗って二階の衣料品フロアへと向かう。二階にはお洒落な服屋さんやファンシーな雑貨屋さんが所狭しと並んでいて、色んなお店をブラブラしながら歩いた。
普段、服なんてお母さんが買ってきたものをそのまま着るだけだから、自分でキラキラした服屋さんに入るだけでも心臓が緊張でバクバクしてしまう。
「これ可愛いじゃん」
心乃ちゃんが手に取ったのは、淡い水色の肩出しワンピース。
涼しげで、風が吹いたらふわっと揺れそうな軽い生地。
「可愛い!」
それから試着し、色違いのお揃いを買うことにした。
「せっかくですし、僕達も海に行く時用に、メンズのアロハシャツでも買いませんか?」
「そんなのも売ってるんだな!」
清次郎くんがきょろきょろと店内を見渡す。
その視線の先には、壁一面に並んだカラフルなシャツ達。
「海行く時に着よ」
心乃ちゃんが一枚引き抜いて、ぱっと広げた。
「うわ、派手」
「そこが良いじゃん」
確かに。
こういうのは、ちょっとくらい派手な方が楽しい気がする。
お会計を済ませて、店を出る。
「次、どこ行きます?」
カイジくんの問いに、心乃ちゃんが真っ先に手を上げた。
「ゲーセン行きたい」
耳をつんざくような電子音が脳を支配する。
日中なのに薄暗い店内だけど、蛍光の光があちこちで輝いていた。色取りどりの光と楽しげな音楽は勧誘するように心を踊らせる効果があり、ふわふわとした夢心地になる。
「そろそろクマ吉の友達でも増やしてあげようかなって思ったんだよねー」
「なるほど。そういうことでしたら僕も協力しますよ」
「わー、お菓子のタワーがある!」
「ゲーセン、初めて来た」
反応は三者三様。
心乃ちゃんとカイジくんはクマ吉の友達を取ろうと意気込み、私はお菓子コーナーを発見し、清次郎くんは初めて来るゲーセンを不思議そうに見渡していた。
「百円玉、良ければ僕のを使いますか?いつの間にか増えてしまって」
「カイジくん、甘やかさなくて良いよ。こんな時の為に両替機があるんだから」
心乃ちゃんは近場の両替機で泣く泣く五千円を千円札五枚に崩し、その千円を百円玉と両替する。
三千円分を両替して、みんなの待つゲーム機へと戻った。
透明なケースの中には、色とりどりのぬいぐるみやお菓子が山積みにされている。
「これに決めた!」
そう宣言し、百円玉を投入口に滑り込ませる。
私は自販機で買ったコーヒー牛乳を飲みながらの応援。
アームがぎこちなく動き、ぬいぐるみの耳をつまんで持ち上げる。
……が、穴の上であっさり落ちた。
「やっぱ操作感がシビアすぎる」
どんどん投入口に滑り込むお金達。
「理世も一回やってみて」
パッと振り向き、百円玉を押し付けてくる。
「いや、私は……」
「良いから一回!一回だけ!」
縋るようにせがまれ、渋々コインを投入し、操作レバーを操った。
右、奥。丁度良いとこで止める。僅かに震える手でボタンを押した。
今度は慎重に位置を調整して、ぬいぐるみの胴体を狙う。
ぐいっと持ち上がるクマ吉の友達候補。
アームはほんの一瞬だけ浮かせたが、そのまま落下。アームは元の位置に戻っていく。
「よし、理世も無理なら諦めよう!」
店内にはかなりの数のゲームが鎮座しており、大きいぬいぐるみを諦めた心乃ちゃんは次に、比較的小さめのショーケースの中に手のひらサイズのぬいぐるみが入っているのを発見する。
三本爪のアームで、制限時間内ならアームの位置を調整出来るタイプのものだった。
「これならいけそうじゃない?」
心乃ちゃんがしゃがみ込んで、ショーケースを覗き込む。
中にあるのは、手のひらサイズの小さなぬいぐるみ達。
さっきよりも軽そうで、いかにも『取りやすいですよ』って顔をして並んでいる。
「……そう見せかけて難しいやつでは?」
「いや、これは取れる」
強気だなぁ……。
心乃ちゃんは念を込めるように百円玉を入れて、プレイを始めた。慎重にアームを運び、ボタンを押した。
回転したアームが足の端を掴み、上手い具合に固定させた。
「あ、ちょっと取れそうじゃない?」
「お、上手く引っかかってる」
アームで運ばれたぬいぐるみは、そのまま落とされることなく景品獲得口に運ばれる。
喜びのあまり、心乃ちゃんは小さく飛び跳ねている。
「おめでと〜!」
「ふっ、良かったな!」
「お見事です」
ぬいぐるみを取り出して、高々と掲げる。
「クマ吉の友達ゲットー」
小さなクマのぬいぐるみ。 ちょっとだけ顔がゆるくて、なんとも言えない可愛さがある。
「名前どうするの?」
「んー……クマ吉の友達だから……」
少し考えてから、思いついたように手をポンッと叩く。
「クマ次郎!」
「安直すぎる!」
「せめてもう少しひねりましょうよ」
ツッコミが綺麗に重なった。
心乃ちゃんは気にした様子もなく、クマ次郎をカバンに大事そうにしまう。
「はぁー、楽しかった」
「私も楽しかったよ」
なんだか、この時間がずっと続けば良いのにって、少しだけ思った。
でも――
「そろそろ行きましょうか」
カイジくんが軽く伸びをしながら言う。
時間を確認すると、午後四時をまわっていた。そろそろ帰らないと夜ご飯の時間に間に合わないし、何より捜索されそうだ。
その一言で、ゆるやかだった時間が少しずつ動き出す。
楽しい時間は、どうしてこんなにあっという間なんだろう。
私は、まだ少しだけ名残惜しさを感じながら、みんなの後を追った。