幸せは貴方からもらおうと思わないので!
「お前は俺のおかげで成り立っているんだ!もっと弁えろ!」
こんなことを言うのは私の婚約者であるジョン公爵令息である。
私の家は祖父の代で手柄を立てたことで子爵家から伯爵家と昇格し、
さらに野心家のお父様が、さらなる昇格、ようは侯爵家となるために、政略結婚を狙ったのだ。
公爵家からしても、歴史はあっても最近はそこまで勢いが無いので、今勢いがあるうちと政略結婚をすることで、きっと実利を得ようとしているのだろう……
……とそのはずなのですが、婚約者であるジョンは……
公爵令息でありながら、新興成り上がり貴族である伯爵家の私、アンナとの婚約は不満らしく、いちいち会うたびに文句をつけてくるのである。
ハッキリ言ってこっちも会いたくないのですけどね。
「ジョン様、私は別にジョン様にどうこうするつもりは一切無いのですが……」
「そういう物言いが生意気なのだ!お前はもっとこの俺を敬え!」
……敬う気も失せるからこそこうなんですけどね。
「俺は公爵家の有望な男だぞ、俺と結婚できるってことはどれほど身の程を超えたことか、もっと理解すべきなんだ!」
……よく言いますね、ジョンのお兄様が跡継ぎかつ優秀なせいで、この婚約くらいでしか公爵家に貢献できないくせに……
しかし私の思っていることが顔に出たのか、ジョンはブチ切れてくる
「なんだ?その不満そうな顔は!俺はいつでもこんな婚約やめてもいいんだぞ!そうしたらお前は不幸だよなぁ?」
……私もはいどうぞと言いたいのだが、流石にここで婚約破棄になると困るのは公爵家よりもお父様だろう。
何故なら公爵家は歴史ある家なのでこの婚約が失敗してもいくらでも挽回の機会はあるだろうが、野心家のお父様はこの婚約を前提としたさまざまな方策をしてしまっているので、これで婚約破棄になったら、色々オジャンになるのは伯爵家である。
まったく、お父様も身の丈にあった取引をして欲しいですわ……
しかし私にもプライドがある。
ようは本当に愛している方ならば、別れないで下さいと私も惨めにすがるかもしれない。
だが愛しているどころか、本心は一切婚約なんて論外の男にそこまでしたいとは思わない。
私があえて黙っていると……
「お前のそういうところが生意気なんだ!」
などと怒鳴りつけてくる。
私はお前の奴隷では無い!
そう思うのである。
しかし私が黙っていると、この小心者は間が悪いと見えるらしく、
「俺がお前みたいな生意気な奴を許してやるから成り立っているんだ、感謝しろ」
などと言って去って行く。
なんだかんだこの男に、婚約破棄なんてできないのだ。
何故なら公爵様に怒られることを恐れているのだから!
残された私が出されたティーをゆっくり飲んでいると、ジョンのお兄様が丁度通りかかり、私に声をかけてくる。
「ジョンはどうしたのだ?アンナ嬢を待たせているのかな?」
「いえ、ジョン様でしたら、先ほど席を立たれました……」
「あのろくでなしはまたも文句を言っているのか、下らない奴だ……!」
お兄様は見た目は麗しい公爵令息って雰囲気なのに、このように毒舌極まりなく、おかげであの恐ろしい王太子様とも上手くやっている有能な方なのだ。
王太子様というと、無能貴族を見るだけで、挨拶をしても無視するような気位の高い方なので、王太子様に認められるだけで凄いということなのだ……
私は流石に無視されるほどではないが、王太子様から無視されるということは、貴族の社交界で、あいつには将来が無いと断定されるレベルで怖いことなのである……
「奴は分かっていない、あいつの意味などこの結婚を成功させて、伯爵家との繋ぎになる、それ以外は何1つ役に立たない存在だと言うのに!」
腹違いの兄弟というわけでもないのに、お兄様はジョンに対してこのように容赦が無く、流石の私も、ある意味苦笑いになるのである。
「アンナ嬢、奴には遠慮なく言うが良い、お前なんぞ私と結婚しなければ何の価値も無いのだから弁えろと、もしもこの結婚に失敗したら、父上もあの馬鹿をもう甘やかしたりはしないだろうと!」
「……流石にそこまで言うことはできません……それにこの婚約が失敗したら困るのは伯爵家のほうがよりそうですから……」
「仮にそうだとしても、ジョンからしたらジョンの人生が終わるのだから、あいつにそんな弱みを突ける度胸など無い、そんな度胸がある悪党ならば、私もこうも冷たい扱いをしなかったであろう!」
お兄様は貴族らしからぬ超実力主義だからこそ、きっと王太子様と合うのだろうなと改めて思うのであった……
さて数日後、公爵家のパーティーに私も呼ばれたのだが、何とジョンは私をエスコートしないどころか、知らない別の女性を侍らせて現れたのである!
「……ジョン様その方はどういう関係で?」
「アンナよ、妬くな妬くな!キレイだろう?俺に相応しい女だ!」
……妬く?その発言に超絶ピキっときたが、そこで怒ったらまるで妬いたかのように思われたら不愉快だから、文句を言うこともできないのに、ストレスで超絶イライラした。
そしてこの令嬢、確か男爵令嬢ですよね?男好きで有名な……
……こいつ、散々私の身分を馬鹿にしておいて、私よりもさらに身分が低い女にデレデレしているでは無いか……
所詮こいつは自分をヨイショする太鼓持ち女が良かったってだけである。
ほらあの男爵令嬢上手く媚びて、しかも胸まで当てて上手いものである。
情婦か?と思うが、まぁ女の武器を上手く使っているのでしょう、私はしませんが。
「アンナがいけないのだ、お前がろくでもなくて弁えない女だから、俺はこうするしかなかった!反省するが良い!」
……私はその発言にピキっと来たのであった……
うん切れた自覚がある、まずいもう止まらない!
「ジョン様?ジョン様こそ弁えたらどうです、私がこの婚約はしないと宣言をしたら、貴方公爵家で居場所があると思って!?」
ああついに今まで言わなかったことを言ってしまった!
「なんだと!お前という奴はそんなことを思っていたのか!だから俺から愛されないんだ!」
「貴方に愛されたいなんて一度たりとも思ったことはありません、この婚約は完全に家のために承知しているだけなのですから!」
「黙れ黙れ黙れ!可愛くない女め!お前みたいな生意気な奴、婚約破棄していいのか?」
「はいどうぞ!」
ああ勢い余ってつい言ってしまった!
もう知らん!このまま勢いで突っ切ってやる!
「ま……まて本当にいいのか?お前は感情的になっている、落ち着くことが大事だ!」
……お兄様の言った通りですわね、このヘタレ王が、ここまで来たら突っ切らんかい!
私はもう興奮しきっているから止まらない!
「はぁ?貴方こそ、婚約破棄とか何とか言って口先だけだったの?できもしないことを言うなんて女ですらヘタレ情けない扱いをされますよ?」
「何だと!この俺が女以下だと言うのか!」
「そのように聞こえたのだとしたら申し訳ないですわ!」
自称男らしいと思っているジョンにはこういうのきくでしょ……
私の悪意がむくむくと湧いてくるのであった!
「そこの男爵令嬢の方とどうぞご結婚でも何でも無さって下さい!私は優しいから祝福してあげますわ!」
「本当ですの?」
さっきまで怯え気味に見ていた男爵令嬢が食いつくでは無いか……
「馬鹿もの!お前など愛人止まりだ!」
「はぁ?話が違うんですけど、別れるって言ってたじゃないですか!だからあんたみたいなつまらない男とでも公爵家だから結婚しようって思ったのに!」
……この男、男爵令嬢にも適当なことを言っていたのね……
「な……つまらない男だと!」
「つまらない男に決まってるでしょ、あれだって下手くそだったし!」
……まさかそこまでやってたのか……
私とは結婚までお預けだったとはいえ、完全に浮気ですね……
「この馬鹿女が!俺を誰だと思っている!」
「婚約者に振られて、身分以外何の魅力も無いクソ男でしょ!」
……この男爵令嬢、悪口がキレッキレである!
「黙れ!」
ああ、あいつ殴るのか?と思うと、ヘタレなので流石に止まった……
男爵令嬢も身をかがめていたが、殴られないと分かると、
「ふん、最低男のくせにそこだけはマシだったようね、でももうさようなら!」
と去って行ってしまった。
そしてパーティーはガヤガヤしている、公爵様夫婦とお兄様がいないから、収集がつかない。
ジョンは「みなさん!あの女は被害妄想が強くて私を貶めようとしているのです!私はアンナに降りかかる火の粉から守るために、あえてあのような振る舞いをしたのです!」
などと言い訳を言っている……
そんなの通るわけ無いと言いたいが、この場で荒れることを恐れる貴族が、公爵家の威光でそれに乗る可能性がある。
だから私はハッキリ言ってやろうと思った。
「ジョン様が浮気をしたのは事実であり、そして婚約破棄を今告げられたことを、私アンナが宣言します!」
うん、婚約破棄まで告げられてないけど、もう後のことは知らん!
私も勢いに乗って言ってしまった……
ジョンは慌てて私の近くに来て、
「馬鹿!お前は何を言っているんだ、この場は収集をつけるぞ協力しろ!」
などと小声でささやいてくるが、
「近づかないでいただけますか!」
と私が言ったことで、完全にジョンはブチ切れた。
「貴様、たかが伯爵家の馬鹿娘のくせに、この公爵家の有望な私に向かって何て女だ!もう許さないぞ!反省しろ!この場で皆に詫びて、恥をかかせた私に詫びるのだ!さもなくば婚約破棄を……考えるぞ!」
……こいつ切れてもこれかよ、婚約破棄を……のあとするぞ!って言うとまずいと思って止まりましたね?
ああもう嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、お父様、いくらなんでもこいつと結婚はいくら家のためでも嫌です!
もうお父様に勘当されるほうがマシとまで私は思ってしまった!
「いいえ、詫びる気は一切ありません、婚約破棄でも何でも無さって下さい!」
私が宣言をしてしまったことで、会場の空気は凍り付いた……
みんなどうしたらいいか分からずに固唾を飲んでいる感じだ……
そりゃあ公爵家主催のパーティーだからそうなりますよね……
すると、騒ぎを聞いたのかお兄様がやって来て、
「大変皆様申し訳ありません、此度のトラブル、公爵家当主に代わって私が謝罪します」
と壇上で宣言をした後に、私とジョンの所にやって来て、
「いいから来るのだ」
と連れていかれるのであった……
そして私、ジョン、お兄様、公爵様、お父様が集まり、話し合いがもうけられるのであった。
公爵様の奥様は、パーティーを何とか繋ぐために席を外されている……
「アンナ!お前は何てことをするのだ!ジョン様、公爵様、うちの馬鹿な娘が大変迷惑をおかけしました、当然伯爵家としてはこんな婚約破棄などするおつもりはなく、今後ともどうかお付き合いをお願いします!」
などと平謝りを連打する。
「伯爵、お前は娘の教育がなってないぞ、アンナを謝らせて、今後は常に私を敬うように教育しろ!」
などとジョンはブチ切れている。
しかしお兄様が……
「何を寝言を言っている、お前浮気しておいてそんな戯言を言う権利があると思っているのか?」
「いえいえ、浮気など、ジョン様ともなれば愛人の1人や2人くらい許容されても、私は特に……」
お父様どこまで卑屈なんですかね、まぁ公爵家と繋がりがあるってことで成り立っている取引が多数ありそうですから、当然ですか……
そして公爵様が……
「なるほど、ワシとしても伯爵家との関係をここで切る気は無い!」
「ありがとうございます!」
などとやりとりをしているが……
「流石父上、分かったか?アンナ、お前は俺に謝ればいいのだ!」
などと言ってくる、私はハッキリ言ってやる。
「恐れながら公爵様、私に期待することは何でしょうか?」
「もちろん公爵家と伯爵家を繋ぐ存在として、アンナ嬢には期待している!」
「おい俺を無視するな!」なんてジョンが言っているが……
「分かりました、ではこの婚約破棄を認めて頂けるのでしたら、新しく関係を結び、私は両家のために奔走することを約束しますが、このままジョン様と結婚させられるくらいならば、私は伯爵家を出ます!」
「はぁ?何を馬鹿なことを言ってる、お前なんかにそんなことできるわけがない!」
などとジョンがほざいているが……
「ううぬ……」と公爵様は困っている……
「お前はなんて馬鹿なことを言うのだ!ジョン様との結婚が大事なんだ!」
とお父様は私を罵倒しているが……
お兄様が口を挟まれたのであった……
「父上、仮にこの後、アンナ嬢とジョンが結婚したとして、両家の橋渡しの実務は誰に任せる気だったのです?」
「もちろんジョンとアンナ嬢にだ」
「……父上はいつまでも息子ってことでジョンに甘いですよね、ジョンにそんな仕事できるわけが無いじゃないですか、つまり実質頼るのはアンナ嬢ということになります……」
「……」
公爵様も薄々気づかれていたのか否定をしない。
「ならばジョン抜きのほうがアンナ嬢はこの仕事を快くやってくれるでしょう、よって婚約なんてやめたほうが両家のためです」
「……」
「な!兄上は何でそんな酷いことを言うのだ!いつもいつも!」
「黙れ無能」
お兄様が恐ろしく冷たい声で言う……
「おいジョンに言いすぎだぞ!」
と公爵様が注意するも……
「……父上もそろそろ目を覚まされてはどうですか?ジョンのような役立たずに、公爵家のことをやらせるべきではないと……」
「しかしだな……」
「親の愛だというのでしたら、無能には何もさせないほうがいいと思いますよ……」
「……」
「兄上!残念だったな、アンナは俺抜きには幸せになれないんだ、どうだ?本当は素直になれよ、俺に愛されなくてひねくれていたのだろう?これからは俺も反省して愛してやる、俺が幸せにしてやるからついてこい!」
……きっとジョン様は最後の賭けのつもりなのだろう、今までにないレベルで自分が譲歩した気分の顔になっている。だが……
「おあいにく様、私はジョン様だけには幸せにして頂こうと思っていないのです!」
……別に私は自分は自分の手で幸せになれると言い切れるほど強い女では無い、だがジョン、お前にだけは幸せにしてもらうなんて思わないんだ!
「……父上ご決断を……」
「伯爵殿、もちろんこの関係は切る気は無いが、どうやらジョンとアンナ嬢では上手くいかないようだ、ジョンが《《病気》》だから婚約をやめて、改めて関係を結びたいと思うがどうだ?」
「ははー公爵様がそうおっしゃるのでしたら、喜んで!」
お父様は別に私の婚約が大事なのではなく、公爵家との繋がりが大事なのだから、十分な落としどころと思ったのだろう……
その後ジョンだが、居場所が無いことを恐れたのか、愚かにも王太子様に無理に挨拶に割り込むという暴挙をする賭けに出たのだが、多分王太子様に気に入られれば、お兄様を見返せるとか思ったのだろうか?
王太子様に「失せろ」と無視を超えた罵倒をされたことで、ジョンの居場所は完全に消え去り、修道院送りとなった……
お兄様は言う「昔からジョンの事が嫌いだった、何1つ努力もせず、そのくせ権利だけは一人前に主張をして、父上が甘やかすのが嫌いで仕方が無かった。私もまだまだ幼いな、王太子様の真似をして、私も修練を続けていたつもりだが、まだまだその領域にはたどり着けていないようだ!」
なんて照れながら私に話したのが印象的だった……
なるほどお兄様も努力なさっていたのですね……
そして私も今努力している、新しい婚約がいらないと言えば嘘になるが、今は両家の橋渡しの仕事を一生懸命より覚えて、頑張ることに、新しい生き甲斐を感じているのだから……!
こんなことを言うのは私の婚約者であるジョン公爵令息である。
私の家は祖父の代で手柄を立てたことで子爵家から伯爵家と昇格し、
さらに野心家のお父様が、さらなる昇格、ようは侯爵家となるために、政略結婚を狙ったのだ。
公爵家からしても、歴史はあっても最近はそこまで勢いが無いので、今勢いがあるうちと政略結婚をすることで、きっと実利を得ようとしているのだろう……
……とそのはずなのですが、婚約者であるジョンは……
公爵令息でありながら、新興成り上がり貴族である伯爵家の私、アンナとの婚約は不満らしく、いちいち会うたびに文句をつけてくるのである。
ハッキリ言ってこっちも会いたくないのですけどね。
「ジョン様、私は別にジョン様にどうこうするつもりは一切無いのですが……」
「そういう物言いが生意気なのだ!お前はもっとこの俺を敬え!」
……敬う気も失せるからこそこうなんですけどね。
「俺は公爵家の有望な男だぞ、俺と結婚できるってことはどれほど身の程を超えたことか、もっと理解すべきなんだ!」
……よく言いますね、ジョンのお兄様が跡継ぎかつ優秀なせいで、この婚約くらいでしか公爵家に貢献できないくせに……
しかし私の思っていることが顔に出たのか、ジョンはブチ切れてくる
「なんだ?その不満そうな顔は!俺はいつでもこんな婚約やめてもいいんだぞ!そうしたらお前は不幸だよなぁ?」
……私もはいどうぞと言いたいのだが、流石にここで婚約破棄になると困るのは公爵家よりもお父様だろう。
何故なら公爵家は歴史ある家なのでこの婚約が失敗してもいくらでも挽回の機会はあるだろうが、野心家のお父様はこの婚約を前提としたさまざまな方策をしてしまっているので、これで婚約破棄になったら、色々オジャンになるのは伯爵家である。
まったく、お父様も身の丈にあった取引をして欲しいですわ……
しかし私にもプライドがある。
ようは本当に愛している方ならば、別れないで下さいと私も惨めにすがるかもしれない。
だが愛しているどころか、本心は一切婚約なんて論外の男にそこまでしたいとは思わない。
私があえて黙っていると……
「お前のそういうところが生意気なんだ!」
などと怒鳴りつけてくる。
私はお前の奴隷では無い!
そう思うのである。
しかし私が黙っていると、この小心者は間が悪いと見えるらしく、
「俺がお前みたいな生意気な奴を許してやるから成り立っているんだ、感謝しろ」
などと言って去って行く。
なんだかんだこの男に、婚約破棄なんてできないのだ。
何故なら公爵様に怒られることを恐れているのだから!
残された私が出されたティーをゆっくり飲んでいると、ジョンのお兄様が丁度通りかかり、私に声をかけてくる。
「ジョンはどうしたのだ?アンナ嬢を待たせているのかな?」
「いえ、ジョン様でしたら、先ほど席を立たれました……」
「あのろくでなしはまたも文句を言っているのか、下らない奴だ……!」
お兄様は見た目は麗しい公爵令息って雰囲気なのに、このように毒舌極まりなく、おかげであの恐ろしい王太子様とも上手くやっている有能な方なのだ。
王太子様というと、無能貴族を見るだけで、挨拶をしても無視するような気位の高い方なので、王太子様に認められるだけで凄いということなのだ……
私は流石に無視されるほどではないが、王太子様から無視されるということは、貴族の社交界で、あいつには将来が無いと断定されるレベルで怖いことなのである……
「奴は分かっていない、あいつの意味などこの結婚を成功させて、伯爵家との繋ぎになる、それ以外は何1つ役に立たない存在だと言うのに!」
腹違いの兄弟というわけでもないのに、お兄様はジョンに対してこのように容赦が無く、流石の私も、ある意味苦笑いになるのである。
「アンナ嬢、奴には遠慮なく言うが良い、お前なんぞ私と結婚しなければ何の価値も無いのだから弁えろと、もしもこの結婚に失敗したら、父上もあの馬鹿をもう甘やかしたりはしないだろうと!」
「……流石にそこまで言うことはできません……それにこの婚約が失敗したら困るのは伯爵家のほうがよりそうですから……」
「仮にそうだとしても、ジョンからしたらジョンの人生が終わるのだから、あいつにそんな弱みを突ける度胸など無い、そんな度胸がある悪党ならば、私もこうも冷たい扱いをしなかったであろう!」
お兄様は貴族らしからぬ超実力主義だからこそ、きっと王太子様と合うのだろうなと改めて思うのであった……
さて数日後、公爵家のパーティーに私も呼ばれたのだが、何とジョンは私をエスコートしないどころか、知らない別の女性を侍らせて現れたのである!
「……ジョン様その方はどういう関係で?」
「アンナよ、妬くな妬くな!キレイだろう?俺に相応しい女だ!」
……妬く?その発言に超絶ピキっときたが、そこで怒ったらまるで妬いたかのように思われたら不愉快だから、文句を言うこともできないのに、ストレスで超絶イライラした。
そしてこの令嬢、確か男爵令嬢ですよね?男好きで有名な……
……こいつ、散々私の身分を馬鹿にしておいて、私よりもさらに身分が低い女にデレデレしているでは無いか……
所詮こいつは自分をヨイショする太鼓持ち女が良かったってだけである。
ほらあの男爵令嬢上手く媚びて、しかも胸まで当てて上手いものである。
情婦か?と思うが、まぁ女の武器を上手く使っているのでしょう、私はしませんが。
「アンナがいけないのだ、お前がろくでもなくて弁えない女だから、俺はこうするしかなかった!反省するが良い!」
……私はその発言にピキっと来たのであった……
うん切れた自覚がある、まずいもう止まらない!
「ジョン様?ジョン様こそ弁えたらどうです、私がこの婚約はしないと宣言をしたら、貴方公爵家で居場所があると思って!?」
ああついに今まで言わなかったことを言ってしまった!
「なんだと!お前という奴はそんなことを思っていたのか!だから俺から愛されないんだ!」
「貴方に愛されたいなんて一度たりとも思ったことはありません、この婚約は完全に家のために承知しているだけなのですから!」
「黙れ黙れ黙れ!可愛くない女め!お前みたいな生意気な奴、婚約破棄していいのか?」
「はいどうぞ!」
ああ勢い余ってつい言ってしまった!
もう知らん!このまま勢いで突っ切ってやる!
「ま……まて本当にいいのか?お前は感情的になっている、落ち着くことが大事だ!」
……お兄様の言った通りですわね、このヘタレ王が、ここまで来たら突っ切らんかい!
私はもう興奮しきっているから止まらない!
「はぁ?貴方こそ、婚約破棄とか何とか言って口先だけだったの?できもしないことを言うなんて女ですらヘタレ情けない扱いをされますよ?」
「何だと!この俺が女以下だと言うのか!」
「そのように聞こえたのだとしたら申し訳ないですわ!」
自称男らしいと思っているジョンにはこういうのきくでしょ……
私の悪意がむくむくと湧いてくるのであった!
「そこの男爵令嬢の方とどうぞご結婚でも何でも無さって下さい!私は優しいから祝福してあげますわ!」
「本当ですの?」
さっきまで怯え気味に見ていた男爵令嬢が食いつくでは無いか……
「馬鹿もの!お前など愛人止まりだ!」
「はぁ?話が違うんですけど、別れるって言ってたじゃないですか!だからあんたみたいなつまらない男とでも公爵家だから結婚しようって思ったのに!」
……この男、男爵令嬢にも適当なことを言っていたのね……
「な……つまらない男だと!」
「つまらない男に決まってるでしょ、あれだって下手くそだったし!」
……まさかそこまでやってたのか……
私とは結婚までお預けだったとはいえ、完全に浮気ですね……
「この馬鹿女が!俺を誰だと思っている!」
「婚約者に振られて、身分以外何の魅力も無いクソ男でしょ!」
……この男爵令嬢、悪口がキレッキレである!
「黙れ!」
ああ、あいつ殴るのか?と思うと、ヘタレなので流石に止まった……
男爵令嬢も身をかがめていたが、殴られないと分かると、
「ふん、最低男のくせにそこだけはマシだったようね、でももうさようなら!」
と去って行ってしまった。
そしてパーティーはガヤガヤしている、公爵様夫婦とお兄様がいないから、収集がつかない。
ジョンは「みなさん!あの女は被害妄想が強くて私を貶めようとしているのです!私はアンナに降りかかる火の粉から守るために、あえてあのような振る舞いをしたのです!」
などと言い訳を言っている……
そんなの通るわけ無いと言いたいが、この場で荒れることを恐れる貴族が、公爵家の威光でそれに乗る可能性がある。
だから私はハッキリ言ってやろうと思った。
「ジョン様が浮気をしたのは事実であり、そして婚約破棄を今告げられたことを、私アンナが宣言します!」
うん、婚約破棄まで告げられてないけど、もう後のことは知らん!
私も勢いに乗って言ってしまった……
ジョンは慌てて私の近くに来て、
「馬鹿!お前は何を言っているんだ、この場は収集をつけるぞ協力しろ!」
などと小声でささやいてくるが、
「近づかないでいただけますか!」
と私が言ったことで、完全にジョンはブチ切れた。
「貴様、たかが伯爵家の馬鹿娘のくせに、この公爵家の有望な私に向かって何て女だ!もう許さないぞ!反省しろ!この場で皆に詫びて、恥をかかせた私に詫びるのだ!さもなくば婚約破棄を……考えるぞ!」
……こいつ切れてもこれかよ、婚約破棄を……のあとするぞ!って言うとまずいと思って止まりましたね?
ああもう嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、お父様、いくらなんでもこいつと結婚はいくら家のためでも嫌です!
もうお父様に勘当されるほうがマシとまで私は思ってしまった!
「いいえ、詫びる気は一切ありません、婚約破棄でも何でも無さって下さい!」
私が宣言をしてしまったことで、会場の空気は凍り付いた……
みんなどうしたらいいか分からずに固唾を飲んでいる感じだ……
そりゃあ公爵家主催のパーティーだからそうなりますよね……
すると、騒ぎを聞いたのかお兄様がやって来て、
「大変皆様申し訳ありません、此度のトラブル、公爵家当主に代わって私が謝罪します」
と壇上で宣言をした後に、私とジョンの所にやって来て、
「いいから来るのだ」
と連れていかれるのであった……
そして私、ジョン、お兄様、公爵様、お父様が集まり、話し合いがもうけられるのであった。
公爵様の奥様は、パーティーを何とか繋ぐために席を外されている……
「アンナ!お前は何てことをするのだ!ジョン様、公爵様、うちの馬鹿な娘が大変迷惑をおかけしました、当然伯爵家としてはこんな婚約破棄などするおつもりはなく、今後ともどうかお付き合いをお願いします!」
などと平謝りを連打する。
「伯爵、お前は娘の教育がなってないぞ、アンナを謝らせて、今後は常に私を敬うように教育しろ!」
などとジョンはブチ切れている。
しかしお兄様が……
「何を寝言を言っている、お前浮気しておいてそんな戯言を言う権利があると思っているのか?」
「いえいえ、浮気など、ジョン様ともなれば愛人の1人や2人くらい許容されても、私は特に……」
お父様どこまで卑屈なんですかね、まぁ公爵家と繋がりがあるってことで成り立っている取引が多数ありそうですから、当然ですか……
そして公爵様が……
「なるほど、ワシとしても伯爵家との関係をここで切る気は無い!」
「ありがとうございます!」
などとやりとりをしているが……
「流石父上、分かったか?アンナ、お前は俺に謝ればいいのだ!」
などと言ってくる、私はハッキリ言ってやる。
「恐れながら公爵様、私に期待することは何でしょうか?」
「もちろん公爵家と伯爵家を繋ぐ存在として、アンナ嬢には期待している!」
「おい俺を無視するな!」なんてジョンが言っているが……
「分かりました、ではこの婚約破棄を認めて頂けるのでしたら、新しく関係を結び、私は両家のために奔走することを約束しますが、このままジョン様と結婚させられるくらいならば、私は伯爵家を出ます!」
「はぁ?何を馬鹿なことを言ってる、お前なんかにそんなことできるわけがない!」
などとジョンがほざいているが……
「ううぬ……」と公爵様は困っている……
「お前はなんて馬鹿なことを言うのだ!ジョン様との結婚が大事なんだ!」
とお父様は私を罵倒しているが……
お兄様が口を挟まれたのであった……
「父上、仮にこの後、アンナ嬢とジョンが結婚したとして、両家の橋渡しの実務は誰に任せる気だったのです?」
「もちろんジョンとアンナ嬢にだ」
「……父上はいつまでも息子ってことでジョンに甘いですよね、ジョンにそんな仕事できるわけが無いじゃないですか、つまり実質頼るのはアンナ嬢ということになります……」
「……」
公爵様も薄々気づかれていたのか否定をしない。
「ならばジョン抜きのほうがアンナ嬢はこの仕事を快くやってくれるでしょう、よって婚約なんてやめたほうが両家のためです」
「……」
「な!兄上は何でそんな酷いことを言うのだ!いつもいつも!」
「黙れ無能」
お兄様が恐ろしく冷たい声で言う……
「おいジョンに言いすぎだぞ!」
と公爵様が注意するも……
「……父上もそろそろ目を覚まされてはどうですか?ジョンのような役立たずに、公爵家のことをやらせるべきではないと……」
「しかしだな……」
「親の愛だというのでしたら、無能には何もさせないほうがいいと思いますよ……」
「……」
「兄上!残念だったな、アンナは俺抜きには幸せになれないんだ、どうだ?本当は素直になれよ、俺に愛されなくてひねくれていたのだろう?これからは俺も反省して愛してやる、俺が幸せにしてやるからついてこい!」
……きっとジョン様は最後の賭けのつもりなのだろう、今までにないレベルで自分が譲歩した気分の顔になっている。だが……
「おあいにく様、私はジョン様だけには幸せにして頂こうと思っていないのです!」
……別に私は自分は自分の手で幸せになれると言い切れるほど強い女では無い、だがジョン、お前にだけは幸せにしてもらうなんて思わないんだ!
「……父上ご決断を……」
「伯爵殿、もちろんこの関係は切る気は無いが、どうやらジョンとアンナ嬢では上手くいかないようだ、ジョンが《《病気》》だから婚約をやめて、改めて関係を結びたいと思うがどうだ?」
「ははー公爵様がそうおっしゃるのでしたら、喜んで!」
お父様は別に私の婚約が大事なのではなく、公爵家との繋がりが大事なのだから、十分な落としどころと思ったのだろう……
その後ジョンだが、居場所が無いことを恐れたのか、愚かにも王太子様に無理に挨拶に割り込むという暴挙をする賭けに出たのだが、多分王太子様に気に入られれば、お兄様を見返せるとか思ったのだろうか?
王太子様に「失せろ」と無視を超えた罵倒をされたことで、ジョンの居場所は完全に消え去り、修道院送りとなった……
お兄様は言う「昔からジョンの事が嫌いだった、何1つ努力もせず、そのくせ権利だけは一人前に主張をして、父上が甘やかすのが嫌いで仕方が無かった。私もまだまだ幼いな、王太子様の真似をして、私も修練を続けていたつもりだが、まだまだその領域にはたどり着けていないようだ!」
なんて照れながら私に話したのが印象的だった……
なるほどお兄様も努力なさっていたのですね……
そして私も今努力している、新しい婚約がいらないと言えば嘘になるが、今は両家の橋渡しの仕事を一生懸命より覚えて、頑張ることに、新しい生き甲斐を感じているのだから……!

