言葉で溺愛する男

第1章 才能に触れた夜

 「ねえ、そう言えば雨宮蓮の原稿、どうなったの?」

 私は校了前のゲラから顔を上げずに言った。

 返ってきたのは、歯切れの悪い声だった。

 「ああ……取りに行けてません」

 「どうして?」

 ようやく顔を上げると、デスク越しに視線が泳いでいる。

 「新人賞取った作家よ?」

 その一言で、空気が少しだけ張り詰めた。

 けれど——

 「最近、鳴かず飛ばずですからね」

 軽く言い放たれたその言葉に、私は小さく息を吐いた。

 ……それでも、よ。

「木原君、担当でしょ。最新作、取りに行って」

 言い終えた瞬間、木原のデスクから書類が雪崩のように崩れ落ちた。

 「すみません、他の仕事で手一杯で……」

 「他の仕事?」

 私は眉をひそめる。
< 1 / 12 >

この作品をシェア

pagetop