花咲く森のから騒ぎ

4

「ふうっ、何とか間に合ったわね」

 ケイティが胸を撫で下ろしている。王子の別荘から無事に生還することが出来て良かったわ。私とケイティは無事帰還。

「よう、マイラ! 無事か?」

 居間に入るとジョシュア達が待っていた。猟犬のトゥイッチとチェルシーが座っている。チェルシーが私に抱きついた。
 
「マイラ、お帰りなさい」
 
 対面にあるソファに腰掛けたケイティが私を見つめながら言う。
 
「あたしも最初は信じられなかったわよ。奇跡って本当にあるのね」

 私が王子と会っている間に、ケイティ自身も、あの場所で入れ替わりの奇跡を体験したというのである。

「この犬が、あたしの唇を嘗めた瞬間、あたしは犬になっていたわ。だから、信じない訳にはいかなかったのよ」

 犬になったケイテイはキョトンとしながら草地を跳ね回り、ワンっと甲高く吼えたという。

「マイラにも見せてやりたかったよ。あはは! ほんと、間抜けなんだ。おしっこ漏らしてたぜ」

「やだっ、ジョシュアったら、それは言わない約束よ!」

 恥ずかしそうにケイテイがむくれている。

「そんなことより、これからどうするのよ」

 私が真剣な顔で皆に問うとケイティが腕組みしながら言った。

「ウイリアム王子はチェルシーにゾッコンよ。それなら、あたしがチェルシーになればいいじゃない! 我ながら素晴らしい考えだわ。あたしが愛人になればいいのよ!」

 ケイティは、ウキウキしたように目を輝かせているが私は大反対だった。
 
「やだっ。ケイティがチェルシーになるなんてやめてよ!」

「名案じゃないの! 宮廷の華になってみせるわ。いいから、あたしに任せなさいよ!」

 事の重大さが分かっているのだろうか。黙って聞いているチェルシーに向かって私が尋ねる。

「チェルシー、不安じゃないの? いくら姉妹でも、チェルシーとケイティはまるで違うわよ」

「ケイティお姉ちゃんはもうすぐ三十歳になるのよね。家業を支える為に結婚する機会を失ったわ。あたしの身体をあげる。若返って、いろんなことを楽しめばいいわ」

 チェルシーの中で覚悟は決まっているらしい。しかし、ジョシュアが渋面になっている。

「俺は、これまで姉貴の面倒を見てきたんだぜ。本当に大変だったんだぞ。ケイテイが公式寵姫になると国が乱れるぞ」

「あんた、失礼よ!」

「おまえ、インチキ占い師に入れ込んでしまったり、詐欺師に商売の金をごっそり奪われたりしていただろう! 姉貴は、昔から男運が悪いんだよ。姉貴が付き合った男のこ半分はチェルシーにも色目を使っていた。ハッキリ言って、あんたは人を見る目がない」

「お黙り」

 まるで、本物の姉弟みたいだ。ジュシュアがケイテイに熱く語っている。

「宮廷は魔窟だ。公式寵姫を陥れようと悪知恵を働かせる女官や王妃が出てきて苛められるぞ。姉貴、おまえ潰されちまうぞ」

 私より一歳年下なのに、ジョシュアは世間をよく分かっているのね。うーむ。これまで、果たして一体どんな生活をしてきたのかしら。

 ジョシュアはチェルシーとして生活しながらケイティの一家の商売も支えてきた。ジョシュアは、姉に対して説教するように喋り続けている。

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