花咲く森のから騒ぎ
 お互い、身体のあちらこちらを子供の同士の様にくすぐりあいながら、小鳥のように何度もキスを繰り返す。
 
 その時、ふっと、あの鳥の声が聞こえたような気がして私は目を見開く。手を止めて、部屋中を見回していく。
 
 しかし、七色の鳥は、この部屋のどこにもいなかった。しかし、その代わり、鳥の欠片を見つけたのだ。それは、ひっそりと部屋を彩っていた。
 
「おい、マイラ……。どうしたんだ?」

 ジョシュアが、ふと、私の顔を見下ろしてから不思議そうに私の瞳の奥を探っている。私は、クスッと笑って指差した。

「こんなところに鳥の羽が残っている」

 ベッドサイドの隅のところに、あの王の鳥の羽が残っていた。不思議な色。

 私は、腕を伸ばして、その羽を拾うと、昔、彼が女の子だった時にそうしたようにジョシュアの髪に挿して静かに微笑んでいく。

「本当に綺麗な色よね。夢の欠片を見ている気分だわ」

 女神の森の七色の鳥。世にも珍しいあの鳥がいたからこそ私達は出会い、こうして一緒にいられるのかもしれない。
 
「ねぇ、七色の鳥はどこにいるのかしら」

「群れをなして世界中を飛んでいるのかもしれないな」

「また、いつか戻ってくるわよね」

「十二年後、また、あの樹で何かが起こったりするのかもしれないぜ」

「また、鳥になる人が出た大変よ! そうならないように管理しなくちゃ」
 
「村の子供達が森に入らないように、恐ろしい鳥の怪人の話をするのさ。昔から、そうやって、領主達は森の秘密を守ってきた」

「アルベール公爵には子供がいないから甥っ子がそれをするのね」

「……ああ、そうだな」

 すると、ジュシュアが、少しだけ甘えるような顔つきで呟いた。
 
「マイラ、笑うなよ。俺さぁ、子供の頃、よく怖い夢を見て泣いたんだ。鳥人の夢によく追いかけられていたんだ」

「なに、それ?」

「鳥の怪人さ。首から上が鳥の男爵が舞踏会に現れるのさ。すごく怖かったなぁ……。俺は、何度も寝ションベンをして乳母に抱きついたさ。八歳の夏、おまえの小屋で漏らしたことがある」

「ああ、そのことなら覚えているわよ。おばぁちゃんにバレないようにこっそり洗ったつもりだけど、おばあちゃんは知っていたわよ」

 私も、鳥の怪人の影に怯えたことがあるのだ。背後から、そっと忍び寄る不気味な影。その男の顔は鳥と同じ……。彼に睨まれたなら、みんな連れ去られてしまう。

 悪い子は鳥のお化けに殺される。村人達は、よくそう言って子供を叱っていたっけ。

 みんな、鳥の怪人の伝説を心のどこかで信じているのよ。

 不思議な鳥。不思議な森の不思議な樹。その神秘的な森は、時として、人間の運命を大きく変えてしまう。不用意に近寄ってはならない奇跡の森。謎めいた森。

「なぁ、マイラ、俺たちの子供にも、いつか、鳥の怪人の話を聞かせよう……」

 言いながら、ジョシュアが私の身体を引き寄せて微笑んでいく。

「うん。そうね」

 私は、小さく微笑んで目を閉じた。そして、互いに頬を寄せていく。あなたと私、お互いの魂を重ねる様にして口付けている。


   


  おわり


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