先にあなたが捨てたのです。さようなら、陰の王家と呼ばれた一族は隣国にお引越しします
「自己紹介がまだだったな。僕はクラウス・バシュラという」
男性の名前を聞いた途端、全ての疑問が氷解する。
私たちが暮らす国、バシュラ魔導帝国の名前を冠することができる者など、直系皇族以外にいないからだ。
「クラウス・バシュラ……皇弟殿下ということですか?」
頭の中にこの国の皇族の系図を思い浮かべながら、私は恐る恐る質問した。
バシュラ魔導帝国に君臨するのは、リュディガー・バシュラ皇帝陛下だ。
陛下には三人の妃がいるものの、子どもは一人もおらず、唯一の肉親が弟であるクラウス皇弟殿下だった。
私が見つめる先で、クラウス殿下がその通りだと頷いたため、私は慌てて頭を下げる。
「し、失礼しました!」
けれど、その途端、クラウス殿下が鋭く制止の声を上げた。
「先ほども言ったが! 君がずぶ濡れなのも、初対面の僕の馬車に乗せられているのも、全部僕の責任だ」
「…………」
私がずぶ濡れなのは私が川に飛び込んだせいだ。
それから、私が馬車に乗せられているのは……彼が私の体調を心配してくれたからだろう。
いくら私が彼の猫を救ったからといっても、ここまで手厚く面倒を見てもらう必要はないわと思っていると、クラウス殿下がお礼を言ってきた。
「僕の猫を救ってくれて感謝する。君のおかげで助かったのは間違いない。が……君はもっと自分を大切にすべきだ。悪漢と対決する必要も、川に飛び込む必要もなかったのだ。いや、僕がもっと早くあの場に駆け付けるべきだった」
私が大変な目に遭ったのは自分のせいだと言い出したクラウス殿下を見て、それは違うと否定する。
「いえ、私が可愛らしい白猫を見つけて勝手にしたことです! 殿下には何の責任もありません」
そう当然の言葉を返したけれど、殿下は頑なに首を横に振った。
「もちろん僕の責任だ。ひとえに白猫を勝手にさせていた僕の監督不行き届きによるものだからな」
「で、でも……殿下は私が悪漢に連れ去られそうになったところを、助けてくださいましたわ」
このままでは平行線だと思った私は、彼に助けられたことを持ち出して話題を変える。
「クラウス殿下は非常に勇敢なんですね。すごく強くて驚きました。とはいえ、登場された時は息切れされていたので、大丈夫かしらと心配しましたが……」
そういえば、なぜ殿下は息切れしていたのかしらと不思議に思ったところで馬車が停まり、大きな門が音を立てて開いた。
はっとして窓の外を見ると、馬車が皇宮の門を越えるところだった。
「あの!」
そうだった。「僕の家」という軽い言い方に騙されたけれど、皇弟殿下の住居といえば皇宮に決まっているじゃないの。
焦って腰を浮かしかけると、クラウス殿下が安心させるような笑みを浮かべた。
「僕が成人した際に、独立した宮殿を一つ賜ったんだ。その宮に他の者はいないから、安心してくれ」
いえ、クラウス殿下の言っている「他の者」とは皇帝や皇妃のことであって、使用人たちはたくさんいるわよね。
それに、皇宮を訪れるというだけで、普通はひどく緊張するものだ。
そう思ったけれど、私が反論の言葉を紡ぐ前にクラウス殿下専用の宮殿に到着してしまい、私は再び彼に抱きかかえられたのだった。
男性の名前を聞いた途端、全ての疑問が氷解する。
私たちが暮らす国、バシュラ魔導帝国の名前を冠することができる者など、直系皇族以外にいないからだ。
「クラウス・バシュラ……皇弟殿下ということですか?」
頭の中にこの国の皇族の系図を思い浮かべながら、私は恐る恐る質問した。
バシュラ魔導帝国に君臨するのは、リュディガー・バシュラ皇帝陛下だ。
陛下には三人の妃がいるものの、子どもは一人もおらず、唯一の肉親が弟であるクラウス皇弟殿下だった。
私が見つめる先で、クラウス殿下がその通りだと頷いたため、私は慌てて頭を下げる。
「し、失礼しました!」
けれど、その途端、クラウス殿下が鋭く制止の声を上げた。
「先ほども言ったが! 君がずぶ濡れなのも、初対面の僕の馬車に乗せられているのも、全部僕の責任だ」
「…………」
私がずぶ濡れなのは私が川に飛び込んだせいだ。
それから、私が馬車に乗せられているのは……彼が私の体調を心配してくれたからだろう。
いくら私が彼の猫を救ったからといっても、ここまで手厚く面倒を見てもらう必要はないわと思っていると、クラウス殿下がお礼を言ってきた。
「僕の猫を救ってくれて感謝する。君のおかげで助かったのは間違いない。が……君はもっと自分を大切にすべきだ。悪漢と対決する必要も、川に飛び込む必要もなかったのだ。いや、僕がもっと早くあの場に駆け付けるべきだった」
私が大変な目に遭ったのは自分のせいだと言い出したクラウス殿下を見て、それは違うと否定する。
「いえ、私が可愛らしい白猫を見つけて勝手にしたことです! 殿下には何の責任もありません」
そう当然の言葉を返したけれど、殿下は頑なに首を横に振った。
「もちろん僕の責任だ。ひとえに白猫を勝手にさせていた僕の監督不行き届きによるものだからな」
「で、でも……殿下は私が悪漢に連れ去られそうになったところを、助けてくださいましたわ」
このままでは平行線だと思った私は、彼に助けられたことを持ち出して話題を変える。
「クラウス殿下は非常に勇敢なんですね。すごく強くて驚きました。とはいえ、登場された時は息切れされていたので、大丈夫かしらと心配しましたが……」
そういえば、なぜ殿下は息切れしていたのかしらと不思議に思ったところで馬車が停まり、大きな門が音を立てて開いた。
はっとして窓の外を見ると、馬車が皇宮の門を越えるところだった。
「あの!」
そうだった。「僕の家」という軽い言い方に騙されたけれど、皇弟殿下の住居といえば皇宮に決まっているじゃないの。
焦って腰を浮かしかけると、クラウス殿下が安心させるような笑みを浮かべた。
「僕が成人した際に、独立した宮殿を一つ賜ったんだ。その宮に他の者はいないから、安心してくれ」
いえ、クラウス殿下の言っている「他の者」とは皇帝や皇妃のことであって、使用人たちはたくさんいるわよね。
それに、皇宮を訪れるというだけで、普通はひどく緊張するものだ。
そう思ったけれど、私が反論の言葉を紡ぐ前にクラウス殿下専用の宮殿に到着してしまい、私は再び彼に抱きかかえられたのだった。