あなたの隣に私は必要ですか?

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「すまないアリーシア。護衛任務につかなければならない。次の夜会も一緒にいけない」

 婚約者であるルートヴィッヒ・エルンザーレ小侯爵様が、いつも通りのセリフを言った。
 
 今日は、エルンザーレ侯爵家の庭園内にある四阿で、月に一度行われる婚約者同士のお茶会。
 しかし、そのお茶会すら、急な任務にて流れることもよくあった。
 エルンザーレ侯爵家の嫡子である彼は、幼き頃より剣技や武術などに優れており、今では23歳の若さで、王立第二騎士団の副団長を任されている。
 鍛え上げられた体躯はがっしりと大きく、寡黙な彼の、切れ長の翡翠色の目はとても鋭く、見る者を震えあげてしまうほど。
 そんな彼とアリーシアが婚約したのは、約3年前。家同士の繋がりを欲するための完全な政略結婚だった。
 アリーシア・フォンベルタ侯爵令嬢。ルートヴィッヒより5歳年下の18歳の彼女は、つい先日学園を卒業したばかり。
 本来ならば、アリーシアの卒業と同時にルートヴィッヒの元に嫁ぐ予定であったが、ちょうどその頃、彼が第二騎士団の副団長に抜擢されたばかりで、すぐに遠征任務を命じられた。
 急な遠征任務だったが、王家からの勅命にて断れず、予定を変更せざる終えなかったのだ。
 遠征任務の目的は、隣国に向かう王女殿下の護衛であり、その王女殿下は以前より殊の外ルートヴィッヒを気に入っていた。
 国に戻ってきてからも自分の専属護衛にルートヴィッヒを指名した為、多忙な毎日を送っており、なかなか結婚の日取りを決めることが出来ないまま今に至る。

「分かりましたわ。父か兄に付き添いを頼みますので、こちらの事はお気になさらず」

 アリーシアは努めて穏やかに答える。
 この答えもいつも通りだ。
 そしてその答えを聞いたルートヴィッヒは軽く頷き、特にそれ以上気にする事もなく一口お茶を飲む。

「そろそろ王宮に戻らなくてはならない。ゆっくり時間が取れず、すまない」

 これもいつも通り。
 護衛対象の王女殿下は、少しでもルートヴィッヒがそばに居ないと、不機嫌に周りに当たるため、出来るだけそばに付くようにと騎士団長からも言われているそうだ。

「それもお気になさらず。どうぞお仕事を優先させて下さいませ」

 形ばかりの会話をした後、すぐに解散となる定例お茶会。
 ルートヴィッヒはすぐに立ち上がり、早々に王宮へと向かう。
 その後ろ姿を何度見送っただろうか。
 ルートヴィッヒが去ったあと、密かにアリーシアはため息を吐いた。

 ルートヴィッヒが居なくとも、アリーシアは侯爵家に残り、嫁いだ時の為に義母となるエルンザーレ侯爵夫人から、侯爵夫人の心得や仕事を学ぶ。
 この日もアリーシアは四阿を後にし、侯爵邸へと足を運んだ。

「まぁ、ルートヴィッヒはもう王宮に戻っていったの?」

 呆れるようにそう言った侯爵夫人は、申し訳なさそうにアリーシアを見る。

「今日はルートヴィッヒに結婚式の日取りについて、二人で話すことは出来たかしら?」
「……いえ。次の夜会にはエスコート出来ない事を教えていただきました」
「また!?」

 アリーシアの言葉に、侯爵夫人は更に呆れている。

「いくら王女殿下の専属護衛だとしても、ルートヴィッヒ一人ではないのよ。ずっと付かなくてもいいはずなのに……」
 侯爵夫人はそう言って、不満を口にする。
 ルートヴィッヒの護衛対象である王女殿下は、この国、シャルベルト王国の第三王女である。
 ミーア・シャルベルト第三王女殿下。
 御歳19歳の彼女は、王立騎士団の対抗模擬戦を観戦した際、勝ち抜いていたルートヴィッヒを見初めたそうだ。
 すぐに自分の専属護衛に付けるよう国王に依頼し、ちょうど隣国に向かう予定であったミーア王女の護衛として勅命を受けた。

 それ以来、ミーア王女は何処に行くにもルートヴィッヒをそばに置いており、他の者だと明らかに不機嫌となるそうだ。

「王女殿下の命であれば、そちらを優先されるのは道義でございます。わたくしは婚約者として、お忙しいルートヴィッヒ様をお支え出来ますよう、精進するのみでございます」

 アリーシアの言葉に、侯爵夫人は憐憫の眼差しを向けた後、気を取り直したように、次期侯爵夫人としての振る舞いを教えた。
 こうして定例お茶会の後は、いつか嫁ぐ日の為に、必ずアリーシアは侯爵夫人より、エルンザーレ侯爵家の事を学ぶ。
 その姿勢は、侯爵家の人々にとても好印象で受け入れられており、その反面、なかなか結婚の日取りが決まらない事に気を揉んでいた。
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