あなたの隣に私は必要ですか?

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 アリーシアが自分の屋敷に戻ると、アリーシアの母が待ちかねたように出迎える。

「おかえりなさいアリーシア。今日はルートヴィッヒ様とちゃんとお話出来ましたか?」

 結婚式の日取りが決まらない事で気を揉んでいるのは、エルンザーレ侯爵家だけではない。
 もちろんアリーシアの実家である、フォンベルタ侯爵家でも、なかなか日取りが決まらない事に不満を感じていた。

「お母様、ただいま戻りましたわ」

 アリーシアは母に挨拶をしたあと、儚げに微笑んだ。
 その表情だけで察した母は、盛大なため息を吐く。

「またルートヴィッヒ様は、すぐに退席させたのですね? あの方は結婚式について何も言わなかったの?」
 母の咎める言葉に、アリーシアは自分が責められているような感覚に陥る。

「申し訳ございません。結婚式の話を切り出す事が出来ませんでした」
 俯きながらそう言ったアリーシアの手に、母はそっと手を添える。

「あなたを責めているのではありませんよ。顔をおあげなさい」

 遠征から戻ってきたルートヴィッヒとアリーシアの結婚式の日取りは、改めて両家で話し合いされた。
 しかし直近での日取りを決めようにも、ミーア王女の護衛にあたるルートヴィッヒの予定が組めず、騎士団にも、まとまった休みの申請を出したところで認可が降りない。
 王家に申し立てを行なったところで、のらりくらりと躱されてしまい、両家も困っていた。
 ならば王女のお気に入りのルートヴィッヒが、直々に王女からの許可を得て休みが取れるよう願い出てもらいたいと、両家の親からルートヴィッヒに頼むが、その後ルートヴィッヒが申し立てをしたのかが分からない状況。
 普段は騎士団の宿舎に寝泊まりしているルートヴィッヒは、ほとんど実家であるエルンザーレ侯爵家に戻る事がない。
 たまに戻ってくる日が、婚約者同士の定例お茶会の日であり、それもすぐに王宮に戻ってしまう為、ルートヴィッヒの両親もなかなか確認出来ないでいた。

「次の夜会にもエスコート出来ないそうです。お父様かお兄様にお願いしてもよろしいでしょうか?」
 
 娘の言葉を聞いた母は、またしてもため息を吐く。

「またですか……。ルートヴィッヒ様は一体何を考えておられるのかしら」
 母がさらに不満げにそう言ったあと、アリーシアを安心させるように優しく言う。

「大丈夫ですよ。お父様やルーカスは、あなたのエスコート役をいつも取り合っていますから、今回も二人で取り合いながらしっかりとエスコートしてくれますよ」

 ルーカスとはアリーシアの3歳年上の兄だ。
 次期フォンベルタ侯爵であるルーカスにも婚約者がいるが、その婚約者は辺境伯の娘にて、嫁ぐ日までは王都にいる事が少なく、夜会での参加は数えるほど。
 その為、よくアリーシアのエスコート役を引き受けてくれていた。

「はい、お母様。ありがとうございます」
 アリーシアは、母の言葉にホッと胸を撫で下ろした。

****

夜会当日。
 アリーシアは兄のエスコートを受けながら、夜会会場に入る。
 陽光を紡いだようなブロンドの長い髪を緩やかにまとめ、遊ばせた後れ毛が仄かな色気を誘う。
 ラピスラズリのような深い青色の瞳は、まるで宇宙を閉じ込めたような点在する光を放つ。
 薄いピンクゴールド色のイブニングドレスは、暖かみと上品な華やかさを兼ね備え、色白で華奢なアリーシアをさらに輝かせていた。
 その隣には、同じ色の髪を持つアリーシアの兄、ルーカスが妹を守るようにエスコートしている。
 二人の入場に、会場内の視線が一気に二人に注がれた。

「本日もフォンベルタ侯爵家のご兄妹は、とても麗しいですこと」
「あのお二方が来られると、会もより一層、華やかになりますわね」
「フォンベルタ侯爵子息様の婚約者様は、リザルレット辺境伯令嬢ですもの。なかなか婚約者様とは夜会に参加出来ませんものね」
「あら? でもアリーシア嬢にも婚約者の方がいらっしゃったのでは?」

 会場内の参加者が思い思いに小声で話をしている。
 しかし、それらの小声は本人が思っているよりも大きく、いやでもアリーシア達の耳に入っていた。

「今日もおしゃべり好きな人が多いようだね。アリー、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですわ。いつもの事ですもの」

 アリーとは、家族からの呼び名。
 気を使ってくれる兄に、つい余計な言葉がこぼれてしまった。
 でも、そう。いつもの事だ。

 そう思っていたアリーシアだったが、次に会場に入ってきた参加者名の告知を聞いた時、心臓が大きく跳ねた。


 
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