男装歌い手は孤独な不良御曹司と甘々で危険な恋をする

まさかのコラボ相手とピンチの再来

僕は勢いよく灯真の部屋のドアを開けて言った。

「みんな、ヴィータとのコラボが決まったよ」

「「「「「は?」」」」」

メンバーのみんなが声をそろえて、そんな声をもらした。
あんぐりと口を開けている。
時は約2時間前に(さかのぼ)る。

***

ピロン。
スマホの通知音が鳴って、僕はDMを確認した。
作曲にもキリがついてちょうどいいタイミングだったから、DMを確認することができた。

「ファンの子からかな?」

そう思ったけど、そのDMは僕の予想を(はる)かに超えるものだった。
表示されているSNSの名前は「ライ」だった。
驚かないわけがなかった。
僕は恐る恐る内容を確認した。

『初めまして。
歌い手グループヴィータのリーダーであり赤色担当のライです。
この度は、僕たちのグループとコラボさせていただきたく連絡しました。
ヴィータとノヴァは敵対している、などと言われていますが僕たちは友好的に関わっていきたいと思っています。
ご検討ください。』

まさかのコラボ依頼。
ヴィータとは、僕たちの次に有名度を誇る歌い手グループだ。
当然のようにライバル視をしているはずだった。
それなのに、コラボ?
なにを考えているんだろう。
僕はその真意を探るために、慎重にDMを返した。

『初めまして。
歌い手グループノヴァの水色担当スイです。
DMありがとうございます。
ライさんにひとつお聞きしたいことがあります。
なぜ、ライバル視しているはずのノヴァを選んだのですか?』

僕のDMにすぐに返信が返ってきた。

『僕たちヴィータは、ノヴァに憧れているんです。
歌唱力もすごいしファンと支え合っているのがよく伝わってきて、僕たちもあんなふうに活動がしたいって思っているんです。
ライバル視はもちろんしていますが、それを仲を悪くする原因にしたくないんです。
ノヴァとコラボして、僕たちは成長したいと考えています。』

そっか…、ヴィータは僕たちに憧れてくれてるんだ。
それがなんだか嬉しかった。

『そう言っていただいて僕たちも嬉しい限りです。
僕はコラボに前向きです。
ですが僕ひとりでは決められないので、この後メンバーとも話し合ってみます。』

そう返事をした後、僕はこの後灯真の家で遊ぶ約束をしていたのを思い出して立ちあがった。

***

そして、現在に(いた)る。

「ちょっと待って?ヴィータはライバルじゃなかったの?」

「うーん。そうなんだけどね?」

一輝の質問に曖昧にしか答えられなかった僕は、スマホのDM画面をみんなに見せた。

「これが2時間前にきたヴィータのリーダーからのDM。ちょっと呼んでくれない?」

一輝が僕のスマホを受け取り、他のメンバーが小さい画面を見ようとギュッと集まった。
それから少し経って、最初にため息をついたのは紫音だった。

「コラボしようって言い出した理由はわかったけど、ほんとに信用できんの?もしかしたら、単に弱み探してるだけかもだろ」

紫音の言うこともわかる。
それに、僕たちは他のグループとコラボをしたことがない。
だから警戒するのは当たり前か。
と、そんなふうに考えていると漣が口を開いた。

「別にあいつはいい奴とは言えないけど、悪い奴でもないよ。活動には真剣な奴」

その言葉に、みんなが首を傾げた。

「漣、ヴィータのリーダーと知り合い?」

莉都の質問にも、気だるげにしているだけ。
それでも、一応答えてはくれた。

「まあ、高校から一緒で同じ大学だし。普通に友達」

「いやいや…それはやく言えよ〜」

僕もその事実に驚いている。
灯真の言う通り早く言えって感じ。

「まあそういうことで、俺は賛成派。あとは任せる」

そう言って今度はスマホをいじり出した。
ったく、勝手な奴。
僕はため息をついた。
そんな中、紫音が真剣な声色で言った。

「なら俺も賛成する。ヴィータとコラボして、なにか変わるかもしれない」

その言葉に反対するメンバーはいなかった。
それから僕はDMを返して、その話は次のミーティングの時に決めることになった。

***

御門來生(みがどらい)は、ちょうど数分前に配信を終わらせ一息ついていた。
突然鳴った通知音に、すぐに反応をした。

「ん?誰からかな〜」

そんなことを言いながら、誰からのDMかなんてわかっていた。
俺はDMを確認した。

『メンバーと話し合いをした結果、このコラボを受けることにしました。
予定が合う時に打ち合わせをしましょう。
今後ともよろしくお願いします。』

案の定ノヴァのスイさんからだった。
コラボを受けてくれることは確証していた。
ノヴァには友人の漣がいたからだ。

それと、俺にはノヴァに執着する理由がある。
俺は中学生時代に撮った写真を眺めた。

「楓乃にやっと会える」

あの声を忘れるわけがない。
俺が楓乃を間違えるわけない。

***

ついに今日はヴィータとの打ち合わせの日。
初めて顔を合わせるわけだし、意外と緊張してるかも。
昨日の夜も漣の家に泊まっていて、借りた会議室のあるビルに漣と一緒に向かう。

「楓乃、電車きた」

「あっ、うん」

僕はハッとして電車に乗った。
打ち合わせの場所はちょっと遠くて、僕たちは電車で行かなきゃいけない。
僕はネットで打ち合わせでいいって言ったんだけど、ヴィータ側が直接がいいって言ったんだ。
もちろんそれでも全然良かった。

「楓乃、緊張してる?」

僕を心配するように見つめてくる漣。

「ううん。まあ、初めてのコラボだしちょっと緊張してるけど…。それより、楽しみって感じかな」

僕はにこっと笑ってみせた。
すると、漣は僕の手を握った。

「よかった。頑張ってね」

「くすっ。漣も一緒によろしくね」

漣のおかげで緊張が解けて、ホッとしたんだ。
そして30分くらい経って最寄駅に着いた。
駅には結構人が多くて、漣が手を繋いで前を歩いてくれた。
僕って方向音痴だし結構助かった。

そのまま改札を出てホッとする。
それから手を離そうとしたんだけど、なんでか抜けない。
あれ?力強くない?
ちょっと痛いくらい握ってくるから、さすがに漣を睨んで言った。

「ちょっと、なんなの?いい加減手離して」

「え〜なんで?せっかく楓乃と手繋げたのに」

僕は漣の発言にあせった。

「ちょ、ちょっと…!!外でそう呼ばないでって——」

「あれ?スイじゃん?」

後ろから聞こえた灯真の声に、体がビクッと反応した。
反射的になのか、漣は僕の手を離した。

「やっほ〜。てか、ふたり一緒に来てたんだ。ほんと仲良くなったね」

一輝の言葉に、内心汗ダラダラになりながら言った。

「ま、まあね。それより、こんなところで会えるなんて偶然だね。人多かったのに、よく見つけられたね」

手を繋がれていたのを見られていないか、“楓乃”と呼んでいたのを気がついていないか。
それが気になったが、どうやら大丈夫だったみたいだ。

「紫音が見つけたんだよ」

僕の問いには莉都が答えてくれた。
相変わらず、目がいいな。
メンバーが迷子になった時、最初に見つけてくれるのはいつだって紫音だ。
そんなことをふと思い出した。

「そっか。ま、合流できたことだし、一緒に行こうか」

みんなが頷いたのを見て、漣を先頭にして歩き出した。
あの流れなら僕が先頭だと思うんだけど、僕は方向音痴だから遠慮しとく。
そうして歩くこと10分で、とあるビルに来た。
日差しも強くて一輝がもう騒ぎそうだったし、ナイスタイミング。
ビル内に入ると、一気に冷気が僕たちの体を冷やしてくれた。
もう外出たくなくなっちゃう。
そんなことを考えて、クスッと笑ってしまった。

「こんにちは。ノヴァのみなさん…で合ってますよね?」

突然僕たちの目の前に現れたのは、息が止まるほどかっこいい男の子だった。
僕は一瞬みとれてしまったけれど、ハッとして挨拶をした。

「は、初めまして…!僕はノヴァのリーダーのスイです。えっと、この後ろにいるのがメンバーです。よろしくお願いします」

僕は顔をあげてもう一度男の子を見た。
まず目にはいるのは茶髪の髪と、深い緑の瞳。
次に耳についたピアスを見て、なんとなく察した。
この人、ヴィータの人だ。

「初めまして。俺はヴィータのリーダー、ライこと御門來生や。よろしくな」

たしかに、闇グループと呼ばれるのも納得がいった。
どこか不思議な感じがある。

「來生、久しぶりだな」

最初に言葉を発したのは、漣だった。

「なんや、つれないなぁ漣。あと、睨むのやめてや」

なんだか漣から黒いオーラが見えるけど、それにも軽くあしらう來生くん。
まあ、高校から仲良いって言ってたし慣れてるのかな?

「あ、ごめんな〜。今案内するわ。ノヴァの自己紹介は、あいつらの前でしてやって」

僕後ろでみんなが頷き、歩き出した來生くんの後ろをついていく。
まだ漣は()ねてるみたいだけど、そんなの気にしない。
3階までエレベーターであがり、右に曲がってすぐの部屋。
プレートには「第一次会議室」なんて書かれている。

「どうぞ〜」

來生くんがドアを開けてくれて、先に入らせてもらった。
中にはヴィータのメンバーと思われる人が、5人イスに座っていた。
音に反応してか、一斉に僕たちの方を見た。

「ノヴァの人?」

第一声を放ったのは、ミステリアスな男の子。
真っ黒な髪は左側で分けられていて、瞳の色は濃い水色、左目の下にふたつほくろが並んでいた。

「はい、そうです。僕はノヴァのリーダー水色担当、スイです」

印象よく笑って見せた。
それでも、その人の表情は変わらない。
シーンと静まり返ってしまって、なんか気まずい?

「もー!せっかくの顔合わせなのに、雰囲気悪くしないでよね!」

そんな雰囲気を破ってくれたのは、少しヤンチャそうな男の子。
髪の毛はきれいにセットされていて、右側の少し長い髪の部分と毛先が水色に染まっていた。
それから瞳は茶色で、目尻が下がっているからおっとりしているようにも見えた。

「ごめんね、ノヴァのみんな!僕はヴィータの水色担当、らりだよ〜!あ、ちなみに本名は来条凌(らいじょうりょう)だよ〜!みんなの名前も、教えてほしいな!」

こんなふうに、明るい人がいて助かった。
僕がホッとする横で、最初に自己紹介をしたのは安定の灯真。

「はいはーい!俺は青色担当の、柊灯真!よろしくな!」

「あ、じゃあ次は僕でいいかな。初めまして、ピンク担当の音琴一輝だよ。仲良くしてほしいな〜」

「はいはーい。一応自己紹介。緑色担当のレンこと、夏神漣。まあ、何度か会ったことはあるよな。よろしく」

「赤色担当のシンだ。本名は柑子木紫音。よろしく」

「じゃあ、最後に。黄色担当のカイで、本名は灰崎莉都です。よろしくお願いします」

と、まあこんな感じでノヴァは自己紹介をしたのは。
ていうか、漣って來生くん以外にも会ったことあるんだ。
なんて知らない情報に少し驚きながら聞いていた。

「んじゃ、こっちも自己紹介。ほら、残り4人」

來生くんの言葉に最初に反応したのは、あのミステリアスな男の子。

「俺は赤色担当のりん。本名は林堂光希(りんどうみつき)。ちなみに、大学4年だ」

「僕は六條結都(ろくじょうゆいと)だよ。紫担当で、ゆいって呼ばれてるよ」

茶髪の髪に黒い瞳、顔立ちは少しかわいい感じ。
六條結都って、どこかで聞いた名前の気がする。
少し頭を悩ませていると、ピンときた人物がいた。

「えっと、結都くんってもしかして剣道の全国大会優勝してる?」

結都くんは一瞬きょとんとした後、にこっと笑って言った。

「へぇ〜よくわかったね!まあ、新聞とか読んだのかな?そうだよ。僕の家系、六條家は剣道の家系だからね」

「そうなんだ」

今はニコニコしていてどこかかわいい印象だけど、剣道をやってる時の動画ではすごくカッコ良かったのを覚えている。
それに、全国優勝歴を持つなんてすごい人だ。

「ちなみに、桜雅(おうが)も僕と剣道をしてたよ」

そう言って結都くんが、後ろの方にいた男の子を前に出した。
その男の子は真っ黒でストレートな髪、紫色の瞳はキラキラ光っているように見えた。

「あ〜えっと、俺は渡守桜雅(ともりおうが)。白色担当のともね。結都のライバルだったんだ」

ちょっと軽い感じの人。
たしかに桜雅くんも、見たことあるかも。
結都くんと決勝で戦って、負けちゃった人だった気がする。

「覚えてます!桜雅くんも新聞に載ってましたよね」

「うん。そうそう。覚えててくれて嬉しいな〜」

桜雅くんはにこっと笑った。
と、そこに割り込んできたのはまたまたかっこいい男の子。
黒髪だけど毛先だけは灰色、青空の色の瞳と、驚くほど真っ白な肌が特徴の子。

「ちょっと!俺が自己紹介してないんだけど」

少しだけムスッとしているように見えるけど、あんまり表情は変わってない。

「俺は合葉想真(あいばそうま)ね。よろしく」

その自己紹介の後に、來生くんが想真くんの肩を組んで言った。

「こいつ普段無表情なんよね。わかりにくいけど、結構面白い奴や。仲良くしてくれよな〜」

そう言いながら、想真くんの頬をツンツンと触っていた。
相変わらず表情を変えない。
でもどこか楽しそうに見えて、來生くんの言っていることがわかった気がした。

「ま、ヴィータのメンバーはこんな感じや。それじゃ、企画会議といきますか。ノヴァのみんなも座ってや」

僕たちは促されるまま、ヴィータと向かい合わせになるように座った。

***

2時間半ほど経って企画会議が終了した。
決まったことはふたつ。
共同曲を作るってことと、マイクラ実況をやること。
収録日は2週間後に設定してもらった。
新曲を作るのはもちろん僕。
ヴィータには作曲担当がいないから、当然の配役だった。
今週はノヴァの新曲作りをしたいから、来週で仕上げてくるって話になったんだ。
その後歌の練習をみんなでやるのと、同時進行でヴィータのイラスト担当である想真くんとも話し合いながらイラストを完成させていく形となった。

3時に集まって会議を始めたから、当然のように今の時間は6時くらい。
夏だからまだ外は明るいけど、みんな電車だし帰る頃にはちょっとずつ暗くなるかな。
そんなことを考えていると、漣が僕に声をかけた。

「スイ、帰ろ」

「スイくーん。ちょっといい?」

漣の言葉に被せてきたのは、來生くんだった。
漣はいらだちを含んだ目で來生くんを睨んだ。

「今から帰るんだけど。また今度にできない?」

「いーや。今じゃないとダメや」

來生くんがそう言うってことは、結構大事なことなのかもしれない。
そう思った僕は、漣の肩を優しくつついて言った。

「漣、ちょっと待ってて。ね?」

僕がそう言うと、漣は渋々引き下がった。
最近わがまま増えて大変なんだよな。
まあ、別にいいけど。

「んじゃスイくん。ちょっとこっちきてや」

「うん。わかった」

言われるがまま、僕は來生くんの後ろについていった。
来たのは隣の小さな部屋だった。
わざわざふたりきりになるってことは、周りには聞かれたくない話なのかな?
僕は少し不思議に思いながらも、來生くんの言葉を待った。
そして來生くんが振り返り、口を開いた。

「ね、スイくん。君ってさ、漣のこと好きなん?」

「えっ!?い、いやいや…。漣とは普通に友達だよ」

僕はすぐに否定した。
そんなふうに見えたのかな。
苦笑いする僕に、來生くんは近寄ってきて言った。

「あいつ、大学じゃ女遊び激しいって噂立ってるんよ。まあ、事実だしな」

心臓がドクッと音を立てた。

「い、今も?」

僕の言葉に、來生くんは頷いた。
漣は僕のことが好きって言った。
なのに、女の子と遊んでるのか。
そう思ったら、なんだか胸が苦しかった。
なにを安心してたんだろう。
漣はただ面白いおもちゃを見つけたかのように、僕で遊んでいただけなのではないか。
僕が物珍しいから。
そう考えたら、漣なんか信じたくなくなった。

漣の特別でいたかったのは、僕の方だったのか。

そうだったみたいだ。
でも、來生くんの言ってることが本当だとしたら。
漣はもう僕のことは好きじゃないかもしれない。
そう考えている間に、來生くんが僕の横に手をついて「逃がさない」って目で見てきた。

「な、なに?」

「だから、俺にしとけよ。な、櫻川楓乃ちゃん」

「なっ…!?どうして僕の本名…」

來生くんの雰囲気がガラリと変わり、視線から逃げられない。
どうして僕の本名を知ってるの?
漣にしか教えてない。
もしかして、漣が「楓乃」って言ってたのを聞いてた?
でも、だとしたら苗字を知らないはず…。
教えてくれないと思ったのに、來生くんはすぐに答えを出してくれた。

「覚えてない?中学3年間同じクラスだったでしょ?」

そんなの覚えてない。
中学校の頃はまだ病気の治療中で、あまり授業を受けられなかった印象しかない。
友達だっていなかった。

でも、本当に來生くんが同じクラスにいたとしたら。
今はもう髪色も髪型も変えているけど、顔でわかってしまうと思うし。
本名を知っていることも、説明がつく。
いや…待って?
てことは、來生くんは僕が女だって知ってる?
そう考えたら、血の気がサーッとひいた。

「覚えてないわけね。ま、いいや。じゃあさ、俺の言うこと聞けるよな?」

「き、聞かなかったら?」

僕がそう聞くと、來生くんはニヤッと笑った。

「もちろん。まずは、ノヴァのメンバーに女だってバラすよ」

「っ…」

僕はグッとこらえた。
やっぱりまだ、みんなに女だって伝える勇気はない。

「わかった。それで、僕にはなにをしてほしいの?」

僕はちょっと強気に言ってみた。

「このコラボが終わっても、俺と仲良くしてほしい。あと、連絡先の交換しよ」

「え?そ、それだけ?」

漣みたいにとんでもない要求をしてくるものと思っていたから、逆にびっくりしてしまう。
來生くんは一度だけ頷いた。

「うん。好きな子には優しくしないとね」

そう言って頭をなでてきた。
振り払おうとしたけど、そうしたら拒否するの禁止とか言われそうだしやめておく。
かわりに、頬をぷくっとふくらませてにらんだ。
すると、いきなり抱きついてきた。

「わわっ!ちょ、ちょっと…」

「かわい。あ、ちなみにスキンシップ拒否るのもなしね」

あ、うん。言うと思った。
僕はそのまま抱きしめられた。
漣みたいに強引じゃないし、別に嫌って感じはない。

あれ?ていうか、この人さっき僕のこと好き……って言った?
その考えを読んだように、來生くんが少し離れて言った。

「ちゃんと言ってなかったよな。俺、中学の頃から楓乃に憧れてて。その時からめっちゃ好きなんよ。だから、漣になんかとられたくない」

と、そう言った時、ドアが開いた。
勢いよく振り返って確認すると——。

「來生、スイになにしてんの」

怒っている漣が立っていた。
僕はあわてて駆け寄った。

「漣!別に僕、なにもされてないから…!」

漣は一度怒ると面倒なことになるから。
だけど、そんな時に來生くんが爆弾投下してきた。

「女だってバラすって言われたのに、なにもされてないって言うとはね〜。ね、楓乃」

「ちょ、ちょっと…!!」

すると、漣は痛いくらいに僕の腕を握ってきた。
それから來生くんを睨みながら、僕に聞いた。

「楓乃、嘘つたの?」

「……えっと…」

なにも言えなかった。
言わなかっただけで、嘘ついたわけじゃない。
だけど、漣はそれが気に食わなかったのだろう。

「楓乃、覚悟して。帰るよ。あ、それと來生」

「ん〜?」

「次俺のになにかしたら、絶対許さないから」

「こわ」

聞いたこともない低い声にゾクッとして、足が動かなかった。
だけど、漣に無理やり連れられて。
漣は怒ったままで、メンバーに挨拶もしないまま帰った。

もちろん、僕も漣に連れられて漣の家まで来た。
電車の中でも全く話さなかったから、なにを言われるかちょっと怖い。

「楓乃」

リビングに入っていきなり名前を呼ばれて、ビクッと体が反応した。

「で?どうして來生に言ったの?」

「……それは、來生くんがもともと知ってて。同じ中学だったらしい」

「ふーん」

対して興味もなさそう。
それから、また腕をひかれて僕は寝室に連れていかれた。
すぐにわかった。
あの“約束”を要求されるんだ。
僕はベッドに押し倒された。
そんな時、來生くんの言葉がよぎった。

『あいつ、大学じゃ女遊び激しいって噂立ってるんよ。まあ、事実だしな』

その途端、僕は拒否しなきゃって思って。
漣と距離をとった。

「もうやめて!僕は、漣とこんな関係になりたくない!僕は……だって、他の女の子と同じでしょ?」

「は…?」

僕の言葉に、漣の表情が険しくなった。
でも、僕は構わず言葉を続ける。

「來生くんに教えてもらったよ。漣は他の女の子といっぱい遊んでるって。僕もその子たちと一緒でしょ?ちょっと特殊ってくらいでさ…!!もう…やめてよ…」

ポロポロと涙が流れた。
この意味だって、もうわかってる。
いつのまにか、僕は漣のことをどうしようもなく好きになってしまったんだ。
だからこんなにも傷ついてる。
漣が孤独だから?
違うじゃん。


——好きになっちゃったんだよ。


「楓乃…」

漣の視線が、今は息苦しかった。

「僕、もう出てく。來生くんと仲良くしてても、漣には関係ないから!」

「楓乃!」

振り解けない。
男の漣の力に、女の僕が敵うはずもなかった。

「やめてよ。結局漣も僕に理想を押しつけるんでしょ?もう、離してよ」

そう言うと、漣は傷ついた表情をして僕の腕を話した。
僕は漣の家を飛び出していった。
< 6 / 7 >

この作品をシェア

pagetop