男装歌い手は孤独な不良御曹司と甘々で危険な恋をする
消えない気持ち
あれから2週間経って、僕たちの関係は驚くほどに変わってしまった。
2週間は曲を作りながら週3で來生くんと遊んだ。
正直言って楽だった。
來生くんは僕を女としてみないから。
僕を僕だから好きなんだってわかった。
でも、漣への気持ちは消えなくて。
それが嫌だった。
今日でコラボの収録を終えて、あとは編集して投稿するだけ。
今は休憩中。
今回は両親と揉めた時みたいな影響はなくて、歌だって普通に歌えた。
でも、ずっとさけ続けてる。
僕はため息をついた。
「スイ、どうしたの?漣となんかあった?」
隣にいた莉都が声をかけてきた。
そりゃ、あんだけ仲良くなったのにこんだけさけてたらバレるよなぁ。
でも、本当のことを言うわけにもいかない。
そうしたら僕が女だってバレちゃうんだから。
「ちょっとケンカしただけ。ごめんね、空気悪くなるよね。僕のせいで…」
「いや、別にそんなの気にしなくていいよ。でも、ふたりがケンカしてるとみんな本調子でないからさ。ちゃんと仲直りしてね」
僕は一度だけ頷いた。
すると、突然スマホの通知音が鳴った。
僕はそれを確認した。
プライベートアカウントの方のラインに、連絡が来てる。
相手は……漣。
まさかこんなタイミングよく連絡してくるなんて。
でも、やっぱりまだ意地を張っていたくて、僕はスマホを置いた。
「いいの?漣からだったよね?」
そう言われると、なんか……。
僕はもう一度スマホをとって、漣からのメッセージを確認した。
『明日の夜、ここのレストラン集合。絶対来て』
そこにはお店のURLが貼ってあった。
ここ、たしか漣のお父さんが経営してるホテルだ。
僕は不思議に思った。
漣はお父さんのことが大嫌いなんだ。
お父さんのせいで、孤独になったって言ってた。
僕にだけ話してくれたこと。
漣のお父さんは財閥の社長なんだ。
子供の頃からずっと財閥を継ぐように言われてて、それが嫌で家を飛び出して歌い手になったらしい。
実は漣と1番付き合いが長いのは僕。
グループ活動が始まる前、5か月だけユニット組んでたから。
その時に教えてくれた。
まあ、そういうことで漣はお父さんのことが大嫌いなんだって。
だから、そんなお父さんのいるレストランに行くなんて、きっとなにかあるんじゃないかな。
僕の考えすぎかもしれないけど。
「行くの?」
ちょっと心配そうな表情を向けてくる。
僕は頷いた。
だって、このままずっとこんな調子は嫌だから。
漣のことはまだ信用できないし、自分が遊びだったと思うとすごく苦しい。
だけど、漣と一生関われない方がもっと苦しいから。
「莉都の言う通り、ちゃんと仲直りする」
そう言うと、莉都はホッとしたように笑った。
「うん、頑張れ」
***
僕は予定の時間の10分前になって、目的のレストランの前についた。
この高層ビルの16階がレストランらしい。
高級レストランだったから、格好がよくわかんなかったんだよね。
でも、漣はいつもの私服でいいって言ってた。
レストランのホームページを見てみたら、一般の人にもゆるく楽しんでもらえるようにしてるって書いてあった。
だからスーツとかは逆にダメなんだって。
僕は自分の服をもう一度確認する。
この前デザイナーさんにもらった服で、肩に水色のラインの入った黒パーカーに黒いズボン。
こういう服は体のラインがあんまり見えない服だから、女か男かわかんなくて好き。
スッキリした服って、男女感がすぐわかるから嫌なんだ。
そういうのを知ってて、こういうところを選んでくれたのかな。
「楓乃、遅くなってごめん」
そう言って現れたのは、もちろん漣。
僕はいつもと違う服装の漣にドキッとした。
ダボっとした青色のワイシャツの下には、黒いTシャツが少し見えていて。真っ黒なズボンを着こなしていた。
僕と違ってスタイルもいいから、バッチリ決まるよな。
「あ、うん。大丈夫。えっと…この格好で大丈夫かな?」
僕はそう聞いた。
漣は少しの間、僕を見つめてから言った。
「うん。大丈夫。ここ、俺が経営してるから」
「えっ!?」
突然言われた事実に、驚きを隠せない。
だって、ここはお父さんの経営レストランのはずだもの。
「あー、楓乃には言ったっけ?ここが親父の経営レストランって」
「う、うん。そう聞いてたから…」
「それは単に親父の名前借りてるだけ。いつかメンバー連れてきたくて、作らせてもらったんだよね。ほら、そうなると高級レストランは気を遣わせるだろ?だから、高級レストランに見せかけた、普通のレストランってこと」
な、なるほど。
たしかに、それならこの設定も頷ける。
メンバーは高級な場は慣れてないし、でも雰囲気は楽しみたいし…みたいな感じで言ってたしな。
「んじゃ、入ろっか」
僕は漣に手を引かれて、ビルの中に入りエレベーターに乗っていった。
外が透ける作りになっていて、夜景が輝いている。
なんか場違い感。
でも、漣と普通に話せてるのは嬉しい。
そんなふうに考えているうちに、レストランについた。
「いらっしゃいませ。夏神オーナー、お待ちしておりました。お席にご案内します」
そう言って男の人が、僕たちを席に案内してくれた。
内装は豪華だけど、お客さんはラフな格好の人が多い。
そうして案内された席は、奥の窓側だった。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
ふたりになったところで、漣が僕に言った。
「ね?メンバーが気に入りそうでしょ」
「うん。そうだね。今度みんなを誘ってこよ」
僕はニコッと笑った。
そして、僕たちは楽しく料理を食べた。
久しぶりに漣の大学の話を聞いたり、たまに行っている僕の高校の話をしたりした。
平然とした態度で振る舞っていたけど、内心嬉しくて仕方がなかった。
あんなに避け続けていたのが嘘みたいだ。
そうしてデザートまで食べ終えて、漣が言った。
「このあとまだ時間ある?」
「え?あー、うん。あるよ」
「じゃあさ、ちょっとだけ行きたい場所あるから。着いてきて」
***
「うわぁ!すご…」
僕はそのきれいな景色を見て、思わずそんな声をあげた。
漣が連れてきたのは丘の上で、東京の街が上からよく見える場所だった。
イルミネーションでも見ている気分だ。
漣は僕の隣に立って、真剣な声色で言った。
「來生になんか言われたんでしょ?様子おかしかったの。……俺、なんかした?」
珍しく声が震えていた。
なんだ、漣は気にしてくれてたんだ。
「漣は女遊びしてるって聞いた。それ聞いたら、僕も他のこと同じなんじゃないかって思って。漣も、本当は僕を“僕”として見てなかったんだって思っちゃって」
そう言うと、漣は黙ってしまった。
不意に漣に抱きしめられた。
「そんなことない。俺には楓乃だけ。本当に楓乃が好きなんだ」
漣の声は、今にも消えてしまいそうで胸が苦しくなった。
漣のこと、少しは信じてもいいかもしれない。
「來生くんが言ってたことは、嘘なの?」
「……嘘じゃない。たしかに、俺は女遊びばっか。ただ、俺を見てくれる人がほしかったから。“夏神漣”としてじゃなくて、楓乃みたいにひとりの人間として見てほしかった。でも…そんな人いなかった」
僕はギュッとパーカーの裾を握った。
そして、できるだけ優しい声色で言った。
「そんなことないよ。僕は、漣の芯の部分がいいなって思ったんだから。僕たちの出会いを知ってるでしょ?ユニット組んでた頃と、夏神漣だって知った時と、僕の態度は変わった?」
僕は漣に誘われて、一緒に活動を始めたんだから。
その時は、当然漣のことなんてなにも知らなかった。
だけど、その歌にこもった気持ちがすごくきれいだと思ったんだ。
「漣がどこの誰だろうと関係ない。ただ、そのままでいればいいんだよ」
その言葉に、漣は涙をこぼした。
僕はその大きな体を、そっと抱きしめた。
漣の孤独が、少しでも埋まることを願って。
***
「さっきはありがと」
夜街を歩く僕に、漣はそう言った。
僕はニコッと笑いかける。
「いいんだよ。漣のこと知れてよかった。僕も避けててごめんね」
「うん」
そして、漣は指を絡ませてきた。
少し恥ずかしい気持ちはあったけど、なぜか拒否はできなかった。
——だけど、これを後悔する日がすぐにくる。
パシャ。
「やっぱりスイくんは、楓乃ちゃんだったんだね」
そんな視線には気がつかなかった。
2週間は曲を作りながら週3で來生くんと遊んだ。
正直言って楽だった。
來生くんは僕を女としてみないから。
僕を僕だから好きなんだってわかった。
でも、漣への気持ちは消えなくて。
それが嫌だった。
今日でコラボの収録を終えて、あとは編集して投稿するだけ。
今は休憩中。
今回は両親と揉めた時みたいな影響はなくて、歌だって普通に歌えた。
でも、ずっとさけ続けてる。
僕はため息をついた。
「スイ、どうしたの?漣となんかあった?」
隣にいた莉都が声をかけてきた。
そりゃ、あんだけ仲良くなったのにこんだけさけてたらバレるよなぁ。
でも、本当のことを言うわけにもいかない。
そうしたら僕が女だってバレちゃうんだから。
「ちょっとケンカしただけ。ごめんね、空気悪くなるよね。僕のせいで…」
「いや、別にそんなの気にしなくていいよ。でも、ふたりがケンカしてるとみんな本調子でないからさ。ちゃんと仲直りしてね」
僕は一度だけ頷いた。
すると、突然スマホの通知音が鳴った。
僕はそれを確認した。
プライベートアカウントの方のラインに、連絡が来てる。
相手は……漣。
まさかこんなタイミングよく連絡してくるなんて。
でも、やっぱりまだ意地を張っていたくて、僕はスマホを置いた。
「いいの?漣からだったよね?」
そう言われると、なんか……。
僕はもう一度スマホをとって、漣からのメッセージを確認した。
『明日の夜、ここのレストラン集合。絶対来て』
そこにはお店のURLが貼ってあった。
ここ、たしか漣のお父さんが経営してるホテルだ。
僕は不思議に思った。
漣はお父さんのことが大嫌いなんだ。
お父さんのせいで、孤独になったって言ってた。
僕にだけ話してくれたこと。
漣のお父さんは財閥の社長なんだ。
子供の頃からずっと財閥を継ぐように言われてて、それが嫌で家を飛び出して歌い手になったらしい。
実は漣と1番付き合いが長いのは僕。
グループ活動が始まる前、5か月だけユニット組んでたから。
その時に教えてくれた。
まあ、そういうことで漣はお父さんのことが大嫌いなんだって。
だから、そんなお父さんのいるレストランに行くなんて、きっとなにかあるんじゃないかな。
僕の考えすぎかもしれないけど。
「行くの?」
ちょっと心配そうな表情を向けてくる。
僕は頷いた。
だって、このままずっとこんな調子は嫌だから。
漣のことはまだ信用できないし、自分が遊びだったと思うとすごく苦しい。
だけど、漣と一生関われない方がもっと苦しいから。
「莉都の言う通り、ちゃんと仲直りする」
そう言うと、莉都はホッとしたように笑った。
「うん、頑張れ」
***
僕は予定の時間の10分前になって、目的のレストランの前についた。
この高層ビルの16階がレストランらしい。
高級レストランだったから、格好がよくわかんなかったんだよね。
でも、漣はいつもの私服でいいって言ってた。
レストランのホームページを見てみたら、一般の人にもゆるく楽しんでもらえるようにしてるって書いてあった。
だからスーツとかは逆にダメなんだって。
僕は自分の服をもう一度確認する。
この前デザイナーさんにもらった服で、肩に水色のラインの入った黒パーカーに黒いズボン。
こういう服は体のラインがあんまり見えない服だから、女か男かわかんなくて好き。
スッキリした服って、男女感がすぐわかるから嫌なんだ。
そういうのを知ってて、こういうところを選んでくれたのかな。
「楓乃、遅くなってごめん」
そう言って現れたのは、もちろん漣。
僕はいつもと違う服装の漣にドキッとした。
ダボっとした青色のワイシャツの下には、黒いTシャツが少し見えていて。真っ黒なズボンを着こなしていた。
僕と違ってスタイルもいいから、バッチリ決まるよな。
「あ、うん。大丈夫。えっと…この格好で大丈夫かな?」
僕はそう聞いた。
漣は少しの間、僕を見つめてから言った。
「うん。大丈夫。ここ、俺が経営してるから」
「えっ!?」
突然言われた事実に、驚きを隠せない。
だって、ここはお父さんの経営レストランのはずだもの。
「あー、楓乃には言ったっけ?ここが親父の経営レストランって」
「う、うん。そう聞いてたから…」
「それは単に親父の名前借りてるだけ。いつかメンバー連れてきたくて、作らせてもらったんだよね。ほら、そうなると高級レストランは気を遣わせるだろ?だから、高級レストランに見せかけた、普通のレストランってこと」
な、なるほど。
たしかに、それならこの設定も頷ける。
メンバーは高級な場は慣れてないし、でも雰囲気は楽しみたいし…みたいな感じで言ってたしな。
「んじゃ、入ろっか」
僕は漣に手を引かれて、ビルの中に入りエレベーターに乗っていった。
外が透ける作りになっていて、夜景が輝いている。
なんか場違い感。
でも、漣と普通に話せてるのは嬉しい。
そんなふうに考えているうちに、レストランについた。
「いらっしゃいませ。夏神オーナー、お待ちしておりました。お席にご案内します」
そう言って男の人が、僕たちを席に案内してくれた。
内装は豪華だけど、お客さんはラフな格好の人が多い。
そうして案内された席は、奥の窓側だった。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
ふたりになったところで、漣が僕に言った。
「ね?メンバーが気に入りそうでしょ」
「うん。そうだね。今度みんなを誘ってこよ」
僕はニコッと笑った。
そして、僕たちは楽しく料理を食べた。
久しぶりに漣の大学の話を聞いたり、たまに行っている僕の高校の話をしたりした。
平然とした態度で振る舞っていたけど、内心嬉しくて仕方がなかった。
あんなに避け続けていたのが嘘みたいだ。
そうしてデザートまで食べ終えて、漣が言った。
「このあとまだ時間ある?」
「え?あー、うん。あるよ」
「じゃあさ、ちょっとだけ行きたい場所あるから。着いてきて」
***
「うわぁ!すご…」
僕はそのきれいな景色を見て、思わずそんな声をあげた。
漣が連れてきたのは丘の上で、東京の街が上からよく見える場所だった。
イルミネーションでも見ている気分だ。
漣は僕の隣に立って、真剣な声色で言った。
「來生になんか言われたんでしょ?様子おかしかったの。……俺、なんかした?」
珍しく声が震えていた。
なんだ、漣は気にしてくれてたんだ。
「漣は女遊びしてるって聞いた。それ聞いたら、僕も他のこと同じなんじゃないかって思って。漣も、本当は僕を“僕”として見てなかったんだって思っちゃって」
そう言うと、漣は黙ってしまった。
不意に漣に抱きしめられた。
「そんなことない。俺には楓乃だけ。本当に楓乃が好きなんだ」
漣の声は、今にも消えてしまいそうで胸が苦しくなった。
漣のこと、少しは信じてもいいかもしれない。
「來生くんが言ってたことは、嘘なの?」
「……嘘じゃない。たしかに、俺は女遊びばっか。ただ、俺を見てくれる人がほしかったから。“夏神漣”としてじゃなくて、楓乃みたいにひとりの人間として見てほしかった。でも…そんな人いなかった」
僕はギュッとパーカーの裾を握った。
そして、できるだけ優しい声色で言った。
「そんなことないよ。僕は、漣の芯の部分がいいなって思ったんだから。僕たちの出会いを知ってるでしょ?ユニット組んでた頃と、夏神漣だって知った時と、僕の態度は変わった?」
僕は漣に誘われて、一緒に活動を始めたんだから。
その時は、当然漣のことなんてなにも知らなかった。
だけど、その歌にこもった気持ちがすごくきれいだと思ったんだ。
「漣がどこの誰だろうと関係ない。ただ、そのままでいればいいんだよ」
その言葉に、漣は涙をこぼした。
僕はその大きな体を、そっと抱きしめた。
漣の孤独が、少しでも埋まることを願って。
***
「さっきはありがと」
夜街を歩く僕に、漣はそう言った。
僕はニコッと笑いかける。
「いいんだよ。漣のこと知れてよかった。僕も避けててごめんね」
「うん」
そして、漣は指を絡ませてきた。
少し恥ずかしい気持ちはあったけど、なぜか拒否はできなかった。
——だけど、これを後悔する日がすぐにくる。
パシャ。
「やっぱりスイくんは、楓乃ちゃんだったんだね」
そんな視線には気がつかなかった。