そんな愛はいらん!
「ああ、ナタリー、僕はナタリーの夫になれることを神に感謝するよ……!」



 こんなとても一見素敵なことを言うのは、私の婚約者である王太子様である。



 王太子様は普段は病的に優れた王である父親である陛下の真似を賢明にしているから、いまいちバレていないが、実際は甘ったれなのである……!




「ナタリーはいいわよね」



 これが友人達の評価である、はぁ……私はどうあってもこれを説明できないからげんなりしているというのに……!



「どこが羨ましいの?」



「はぁ?贅沢言わないでよ!あれだけ容姿端麗、さらに次期王として相応しい振る舞い!さらにナタリーを愛している、この三拍子があって羨ましくないなんてありえるわけないでしょう!あんたもしかして性格が悪いの?」



 性格が悪いのは否定しないけど、そういう悪さは無いわよ!



 ということで友人とのお茶会も私は最近ストレスでしかないのだ……



 理解されたいわけではないが、誤解されるのは誰であってもストレスだと思うのですが……!



 本日も陛下に召集されて、陛下は仰る。




「ワシはワシの事ならばこの通りやり切る気力も自信もある!だが息子の事となると別だ!奴はワシを庇って死んだ王妃の血が流れているのだ、どうかよろしく頼む!」



 かつて陛下が愛されていた王妃様は、何と暗殺者から陛下をかばってなくなっているのだ。


 その時の陛下の怒りと悲しみは凄まじく、外国勢力の仕業であることを突き詰めた結果、数年にわたる訓練をしたあげく、敵の王族を皆殺しにしたのだ……!



 そしてそんな唯一の王妃様との一人息子が王太子様なので、もうなんていうか、陛下も普段のシビアな感覚が失せて、王太子様を絶対に変える気が無いと言う感じなのである。


 陛下ともあろうお方ならば、どこか王太子様が王に向かない甘ったれであることはお見抜きになっているはずなのに……!


 よって他の兄弟(側妃の子)とは別格で、かつ陛下の苛烈さをみんな知っているから、後継者争いなんていう寝言は起きたりしないのだ(だって王太子様に危害を加えたら、きっと三族滅亡させられるに違いないから……)




 そんな陛下に私は公爵家であり貴族学校の成績も優秀だから託されたのだろうけど、



 何て言うか、王太子様の甘ったれさは、口では説明しにくいのだ……!




 王太子様が悪人かというと全然違う、むしろ善良な方だ、故に王に向かないと言うか何というか……!


 さらにだ、本質が……!




 今日も王太子様とのお茶会である……



「ナタリー、君のために花を用意させた、確かこの花が好きだったよね?」



「はい、私が好きな花を覚えておいてくださってありがとうございます、しかしですが、花も摘んだら気の毒ですし、またこのような気遣いをされなくても十分です……」



 と私が述べても……




「いや、ナタリーへの愛を示すためならば、花がどうなってもいいと思う僕は残酷なのだろうか……!」



 などと訳の分からないことを述べている……



 これでも普段は違うのだ、陛下の真似を賢明にしているからか、ハキハキした王太子様の真似を一生懸命していて、みんなはこんなロマンティスト(笑)な詩人の姿を知らない。


 きっと私が婚約者なので甘えているのだろうと思うのである……!




「……恐れながら王太子様は王太子です、私に気遣って下さるのは光栄ですが、過度な振る舞いは王太子の格を落とすことになります……」



 このように注意をしても、




「いや、僕はナタリーに愛を示したいのだ、ナタリーに愛を示さないと僕の価値が無くなってしまう……」




 ……この人はどうしてこうなったのだろうか?


 きっと偉大なる御父上である陛下との差にコンプレックスでもあるのだろうか?



 どうしてまるで奴隷が自分が仕事をしないと捨てられて死んでしまうみたいな価値観になっているのか、私には分からない。



 私は別に私に命令をして欲しいなんてマゾでは無いですが、かといって私にまるでひざまずくような男は求めていないのに。


 まして王太子様にそんなことを思う不敬な女でも無いというのに……!




「愛とやらも、過分に示したらまるで甘すぎる紅茶のようにおいしくなくなります……もう少しお考え下さるとありがたいのですが……」


 私が丁寧に言ったつもりだったがこれは地雷だった!



「ああ、僕の愛は不要なものだったのだ、ナタリーよ、僕を捨てないでくれ!」




 ……勘弁して欲しい、本当にこんな些細なことでいちいち言われたら、私の精神のほうが持たない!



 王太子様が繊細過ぎて何を言っても地雷かのような雰囲気すら感じるので、どんどん私のメンタルが削られるのである。



 さらにだ!普段はハキハキ王子を演じているから、みんな知らないのだ!



 ……おそらく陛下は薄々気づいているからこそ、私に頼むと毎度のように繰り返すのだろう……




 ……陛下が亡くなった後に、とてもこれでは王などできないのでは?


 私は今日改めて思ったのであった……!




「……どうして王太子様はそんなお考えをするのですか?」





「僕はナタリーの愛が無いと何もできないからだ、だからこそナタリーに愛を提供しないといけないんだ!」




 ……重……重すぎる……


 何て言うか愛の軽重というものは、相手と比較的できるだけ合わせるから成立するわけで、相手との軽重がズレ過ぎたら成立しないと思うのですが、どうして分からないのだろうか?




「その愛、私が……」しまった言い過ぎか!?私が止めようとしたら……



「やはり僕の愛はナタリーに迷惑なのだろうか?でも僕を捨てないでくれ!僕はナタリー無しでは生きられない存在なんだ!」




 はぁ……


 これを言われて嬉しい人もいるかもしれないが、私には無理である。



 だってまるで幼い子供のようではないか。


 ママがいないと~って?


 幼い子供ならば仕方ないと思うけど、大の大人がそれでは、私はうんざりする。



 仮に愛があったとしても、うんざりが愛を超えるコストなのだ!



 こんなシビアなことを思う私は、友人が言うように性格が悪いのは認める、


 だがきついものはきついのだ!



 ああ~陛下さえいなければとっくに逃げているなと自分で確信するのであった……!


 私は貴族の臣なので、流石に陛下に忠誠心はありますし、


 同時に陛下の苛烈さを何よりも恐れていますからね!




「……王太子様は普段は私抜きでもしっかりなさっているじゃないですか!」




「違うんだ!僕はナタリーがいるから頑張らないとって思うだけなんだ!」




 ……流石にドン引きした、あのですね、王太子ですよ王太子、次期王ですよ、


 自分でこんなことを言うのもあれですが、たかが公爵家の雑魚娘との恋愛の1兆倍大事なことでしょうが!


 それを私がいるから頑張れるですって!?



 こんな人に王を任せていてはいけない、絶対に将来内乱か、外国の攻撃でこの国は滅亡するわ!



 私は今確信した、私はいくら陛下が恐ろしくても、臣として言わないといけないことがあると!




「王太子様恐れ入りますが、王太子様は王太子であることが辛いのではないでしょうか?」




「……正直に言う、その通りだ、必死に父上の真似をしているが、僕には無理だと思う、流石ナタリーだよ良く気づいたね……」




「……分かりました、今までの愛のお礼と、それから私も臣として陛下に進言をしようと思います、どうか同行して下さい!」



「……一体何をするんだ!?」




 私は王太子様と一緒に陛下の元へと向かい、陛下にお目通りを願った!




「ナタリーよどうしたのだ?」




「恐れながら臣は、王太子様への心と臣下としての心2つから、愚かにも陛下のお考えに背くことを言うことになりますが、どうかお許しください!」




「……ただ事では無さそうだな……!」




 ……怖すぎる……陛下が真顔になっているんですが……!




「……け……結論から申し上げるに、王太子様をこのまま王太子様にすることは、誰も幸せにならないと、臣は考えるのであります!」




「……なるほどどういうことか聞かせてくれるかね?率直に言えば、息子が王太子に相応しくないということかな?」



 ……こ……怖すぎる、私の顔から血の気が抜けていくのを感じる……


 しかしだ!仮にも王太子様は不器用ながら私を愛そうとしてくれたし、私も私で臣下としてこの国のために言わないといけない!


 ああ怖い……マジ逃げたいけどな!



「恐れながら陛下!王太子様は王太子であることを無理しています、そんな方が王になったら将来内乱か外圧による滅亡は必須!それでは王太子様自身もこの国にとっても不幸です、陛下と違い、王太子様は限界なのです……!」



 陛下が黙っている……この沈黙が怖い……!


 そして……



「我が息子よ、ナタリーが言うことは真か?」




 王太子様は父親である陛下に明らかに震えているが、私は王太子様に正直に言うようにこっそり促す……すると……



「ナタリーの言う通りです、私ではとても王が務まりそうになく、プレッシャーしか感じていません!」


 こう言った後に私に小声で「ナタリーがいなかったら言えなかったよありがとう」


 などと言って来た……


 ……それは良かったですね……!

 感動はしませんよ、だって私は子守を愛と思わないのだから……!



 陛下はほとんど見せたこともない動揺した顔をしている……


 そして少し考えた後に……



「ナタリーをつけ、ワシが支援すれば何とかなると思ったが無理か……ワシが亡き王妃のために、息子を次期王にしてやりたいと思ったのは、間違いだったのだな……」


 などといつになく力弱い声で仰る……



「……恐れながら陛下のその強さ故に今は成り立っていますが、陛下のおかげなんですそれは!」



 私はそこだけはしっかりと伝えておいた……



「分かった、お前はどう生きたいのだ?」



「私はナタリーと共に、ゆっくりと生活したいのです、王族の責任を果たせない愚か者ですが……!」



「……いいだろう、もしもお前が王となって悲惨な結末になったら私こそ亡き妻に合わす顔が無くなるのでな……」



 こうして王太子様の廃嫡が決まり、田舎貴族の身分が形式的に与えられたが、領地は与えられずに、田舎の貴族の居候みたいな身分になった。


 これならばきっと気楽に暮らせるのだろう……



 そして元王太子様は言う。



「ナタリーありがとう、おかげで僕は僕らしく生きられそうだ、そしてナタリーと一緒に生きていける、嬉しいよ……」



 ああこれから残酷なことを言わないといけない……!




「……もう私がいなくても王太子のプレッシャーが無くなったので生きていけると思います、私との関係もここで終わりにして下さい、今までの愛に報いるために頑張りましたが、私はあなたを愛せていないのです……」



「な……そんな!」



「私はいくら辛かったとは言え、独りよがりに私に愛を差し出して、愛が通っているとしている貴方は恋愛対象としてはどうしても無理でした、今までありがとうございました!」



 泣いている彼を置いて私は去った……




 ……私なりに愛されていた借りは返したつもりですわ……


 だから私にも自由を下さい、元王太子様……!
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