婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「美琴!」

「凪、久しぶり」

 親友の美琴と顔を合わせるのは、結婚の報告をして以来になる。彼女も私もなにかと忙しくて予定が合わず、ずいぶん時間が空いてしまった。

「オシャレなカフェだね」

 美琴は飲食業界に務めており、このお店の出店には彼女も関わったと聞いている。

「でしょ? メニューもすごくこだわっているの。どれもおススメだよ」

「美味しそう」

 それぞれオーダーを済ませると、打って変わって美琴が心配そうに私を見つめてくる。

「いろいろと、あったみたいね?」

 立食パーティーがあったのは、十日ほど前になる。
 父らの起こした不正はまだ捜査中ではあるものの、あれだけ人が集まる場でのやりとりだ。話はすぐに漏れ、翌日の新聞にも取り上げられていた。

「うん、あっ、でもね、私は落ち込んだりしていないから、大丈夫」

 ますます表情を曇らせた美琴に、慌ててそう付け加えた。

「あのね――」

 そうして、ここ最近起きた実家や鏑木さんたちに関するあれこれを話して聞かせた。

「まだ調べは続いているんだけど、父は社長退任が決まっているし、三峰の院長もそうなるみたい。鏑木さんも、政治家としてはもう難しいかもしれないって」

 違反をしたのだから、償うのは当然のこと。実の父だからとか、元婚約者だからどうこう思いはしない。
 職場でずいぶん幅を利かせていた玲奈の今後も、いばらの道だろう。でも、原因はこれまでの彼女にあるのだから仕方がない。

 実川メディカルの社員のことは気がかりだけど、それも私の手の届かない話だ。ただいつも父に物申していた人物が社長に就任したと聞いて、きっと盛り返していくのだろうと信じている。

「凪は大丈夫?」

「凌也さんと結婚した時点で、私はもう実家とは縁を切ったつもりだったから平気だよ」

「そうよね。それなのに、いつまでも凪に纏わりついて……って、もう本当に心配する必要はなないみたいだね」

 私の顔を見てにっこり微笑む美琴に、どういう意味かと首をかしげた。

「凪、本当に綺麗になったわね。それに、すごく幸せそう」

「そ、そうかなあ?」

「旦那さんに、愛されてるのね」

 真っすぐな言葉に気恥ずかしくなって、頬を手で覆う。
 私の反応に、美琴はますます笑みを深めた。
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