婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
 それから、あたためてお互いの近況報告をし合う。

「――それでね、今度、食事に誘われているの」

 美琴にはいつも心配をかけてばかりで、私が助けてもらう側だった。
 こんなふうに頬を染める彼女は、初めて見る。

 ここのところ勤め先の上司とちょっといい感じらしく、近々ふたりきりで会うのだという。

「服はどうしようとか、プライベートではどんな口調で話せばいいのかって考えちゃって」

 私たちの間で、コイバナが出ることなんてほぼなかった。だからすごく新鮮だし、素直に美琴を応援したくなる。

「付き合うなんて久しぶり過ぎて、もうどうしたら……って、まだ告白もされていないんだけどね」

 美琴自身は好意を抱いているようだし、お相手の男性からもそんな雰囲気を感じるのだという。

「凌也さんが連れて行ってくれたんだけどね」

 悩める美琴に、彼女の雰囲気によく似合う服を扱っていたお店を紹介する。スマホでホームページを見せたところ、美琴も気になったようだ。

「この後、寄ってみようかな」

 いつになく楽しい女子会を終えて、お店の外に出る。その脇に、凌也さんが迎えに来てくれていた。

「凌也さん」

 近づくと、すっと手をつながれる。
 それから彼は、あらためて美琴にも挨拶をしてくれた。

「凪を幸せにしてくれて、ありがとうございます……って、なんか私、凪の保護者みたいなこと言っちゃった」

 照れ笑いをする美琴につられて、私も笑みを浮かべる。
 彼女がずっと気にかけ続けてくれたように、今度は私が美琴の恋を応援したい。

「美琴。さっきの件、また報告してね」

 めずらしく私から次につながる約束をすると、美琴はうれしそうな顔をした。

 背を向けた親友を見送りながら、凌也さんの手をぎゅっと握る。それから、隣を見上げた。

「帰ろっか、私たちの家に」

「ああ」

 私に合わせて、ゆっくりと歩きだす。

「凌也さん、大好き」

 不意に伝えたくなって、前を向いたまま声に出していた。

「俺は」

 彼が身を屈めた気配に、振り向きそうになる。
 でも思いのほか近づいていた凌也さんに驚いて、動きを止めた。

「凪を愛してる」

 耳もとにかかる吐息がくすぐったくて、けれど泣きたくなるほど幸せで。つないだ手にますます力がこもった。




END
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