婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
しばらくした頃には、なかなかうなずかない俺に業を煮やして、不意打ちで見合いの席に呼ばれるまでになっていた。
まさしく今日もそれだった。
これまで数回そんなことがあった。わざわざ出向いてくれた相手に悪いと、食事だけは付き合ってきたのがいけなかったのだろう。押せばいけると勘違いした母は、それ以降も見合いをさせようと画策した。
『仕事が疎かになっては困るんだ。母さんの心配もわかるが、もうしばらく放っておいてくれ』
真剣に訴えると、母は一時的に静かになる。
しかし、すぐさま同じことを繰り返す。多忙な父では、ストッパーにはならなかった。
箱入りのお嬢さまだった母の理解を得るのは難しいと、暴走を止めることは諦めた。
しつこい母の言葉は適当に流しながら、ごくたまに付き合ってやればいい。そうやって、のらりくらりと躱していく。
真夏の蒸し暑い中、無駄に終わるとわかっていながら料亭に顔を出したのはそれが理由だ。
社長に就任して二年が経ち、仕事に余裕が出てきた。母の薦める相手はごめんだが、そろそろ結婚を意識するのもいいかもしれない。月日が経ち、俺の考えも変化していた。
「はあ」
ひとりになると、精神的な疲労が一気に押し寄せてきた。
すぐに動き出す気にならず、店の許可を取って庭園を見て心を落ち着かせる。
じっとしていても汗が噴き出すような暑さのため、外にはほかに誰もいない。その静けさが、ささくれだった心をなだめてくれるようだ。
この後はなにも仕事を入れていないが、そろそろ戻ろうか。引き返しかけたそのとき、ひと目を避けるように隅で話し込む男女を見かけた。
男は終始笑みを浮かべ、女性との距離も近い。恋人か夫婦なのだろうと思うも、男の笑みはどうしてか見ているとゾッとした。
女性はこれをどう受け止めているのかが、無性に気になる。わずかに移動してうかがい見ると、彼女は悲壮な表情をしていた。
なにか問題でもあるのか。どうにも放っておけず、身を隠しながら近づく。
どこかで見た顔だと思っていたが、彼が政治家の鏑木彰だとようやく気づいた。たしか、亡くなった父親の基盤を継いだばかりだったはず。
長年、父親を公私ともに支えてきた好青年。そんな評価を耳にしたことがあるが、後ろ暗い噂はそこかしこで聞こえてくる男だ。
女性をとっかえひっかえし、ときには相手が本気になってしまいトラブルになる。それらは父親が金で解決してきたため、表には出ていない。
だが、人の口に戸は立てられない。そうらしいと、噂話のようにいくつかの醜聞が密かに出回っている。
もしこの女性も被害者なのだとしたらと考えて、この場にしばらくとどまることにした。
まさしく今日もそれだった。
これまで数回そんなことがあった。わざわざ出向いてくれた相手に悪いと、食事だけは付き合ってきたのがいけなかったのだろう。押せばいけると勘違いした母は、それ以降も見合いをさせようと画策した。
『仕事が疎かになっては困るんだ。母さんの心配もわかるが、もうしばらく放っておいてくれ』
真剣に訴えると、母は一時的に静かになる。
しかし、すぐさま同じことを繰り返す。多忙な父では、ストッパーにはならなかった。
箱入りのお嬢さまだった母の理解を得るのは難しいと、暴走を止めることは諦めた。
しつこい母の言葉は適当に流しながら、ごくたまに付き合ってやればいい。そうやって、のらりくらりと躱していく。
真夏の蒸し暑い中、無駄に終わるとわかっていながら料亭に顔を出したのはそれが理由だ。
社長に就任して二年が経ち、仕事に余裕が出てきた。母の薦める相手はごめんだが、そろそろ結婚を意識するのもいいかもしれない。月日が経ち、俺の考えも変化していた。
「はあ」
ひとりになると、精神的な疲労が一気に押し寄せてきた。
すぐに動き出す気にならず、店の許可を取って庭園を見て心を落ち着かせる。
じっとしていても汗が噴き出すような暑さのため、外にはほかに誰もいない。その静けさが、ささくれだった心をなだめてくれるようだ。
この後はなにも仕事を入れていないが、そろそろ戻ろうか。引き返しかけたそのとき、ひと目を避けるように隅で話し込む男女を見かけた。
男は終始笑みを浮かべ、女性との距離も近い。恋人か夫婦なのだろうと思うも、男の笑みはどうしてか見ているとゾッとした。
女性はこれをどう受け止めているのかが、無性に気になる。わずかに移動してうかがい見ると、彼女は悲壮な表情をしていた。
なにか問題でもあるのか。どうにも放っておけず、身を隠しながら近づく。
どこかで見た顔だと思っていたが、彼が政治家の鏑木彰だとようやく気づいた。たしか、亡くなった父親の基盤を継いだばかりだったはず。
長年、父親を公私ともに支えてきた好青年。そんな評価を耳にしたことがあるが、後ろ暗い噂はそこかしこで聞こえてくる男だ。
女性をとっかえひっかえし、ときには相手が本気になってしまいトラブルになる。それらは父親が金で解決してきたため、表には出ていない。
だが、人の口に戸は立てられない。そうらしいと、噂話のようにいくつかの醜聞が密かに出回っている。
もしこの女性も被害者なのだとしたらと考えて、この場にしばらくとどまることにした。