棘ある花も愛されたい


白い吐息が夜空に消えていく月灯りの下。
グレーのムートンブーツで踏み締める雪道がギュッギュッと音を立てる。

街灯が照らす夜道は静かで、住宅街の明かりも少なくなり始めていた。

わたしはどこにでもあるような外観のチャコールグレーのアパートに辿り着くと、足音が響く鉄筋の階段を上って行く。

そして階段を上り切ると、2つの扉の前を通り過ぎて、一番奥にある201号室の扉の前へとやって来た。

肩から下げたフェイクレザーのトートバッグの中から鍵を取り出すと、その鍵を差込口に差し、クルッと回す。
すると、カチャッと解錠する音が聞こえ、わたしは鍵を引き抜いた後でドアノブに手を掛けた。

開く扉の中に見えるのは、広いとは言えない玄関に短い廊下。
わたしは玄関に入ると、内側から扉の鍵を施錠し、壁に手を付いて履き慣れたグレーのムートンブーツを脱ぐと、靴棚の上に置いてあるガラスの皿に鍵を落とした。

それから、猫の肉球柄に"Welcome"と書かれた玄関マットを踏み込み、暗い廊下を進んで行くと、リビングへ繋がるドアを開ける。
そこでわたしは、壁にあるスイッチを押し、やっと家に明かりを灯した。

わたしの城は、8畳しかないワンルーム。
日中はよく陽射しが入り込む広い窓にアイボリーのカーテンを閉め、その窓辺には幾つかの観葉植物が置いてある。

天井から下がる球体タイプの照明は温かい色で部屋を照らしてくれているが、数時間留守にした部屋の中は冷え込んでおり、わたしは部屋の角にあるストーブの電源を入れた。

わたしは肩からトートバッグを下ろすと、二人掛けのコンパクトソファーの上にトートバッグを落とし、自分の身体はすぐ横にあるロータイプのシングルベッドへと投げた。

「寒っ······」

ベッドの上は冷たく、倒れた勢いで首に巻いていた水色のチェック柄マフラーが口元まで隠す。
わたしはぼんやり天井を眺めた後、小さく溜め息を吐きながらゆっくり目を閉じた。

すると、ストーブがつくボッという音と火が焚かれるカチカチとした音が静かな部屋の中に響き、その音だけで部屋が温かくなったような気にさせる。

立ち仕事からの疲れでこのまま寝落ちてしまいそうだったが、トートバッグの中からブブッとスマートフォンが振動する音が聞こえ、わたしは反射的に目を開けた。

そしてゆっくり身体を起こすと、トートバッグに手を伸ばし、中からスマートフォンを取り出す。
画面に映るのは、"新着メッセージ1件"と"青佐(あおさ)くん"という名前。

青佐くんは、わたしが働くトレカやゲーム、ホビー類を取り扱う"ウィルジョイ"というお店の同僚だ。

画面ロックを解除したわたしは、メッセージアプリを開き、青佐くんからのメッセージを確認した。

『お疲れ様です!今日は忙しかったですか?明日は、クリスタルハーツⅤの発売日ですね!』

何気ない青佐くんからのメッセージにわたしは微かに口角を緩ませると、「お疲れ様、今日はそこそこかな。明日、忙しくなりそうだね。」と返信した。
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