棘ある花も愛されたい
わたしはスマートフォンをベッドの上に置くと、首に巻き付くマフラーを解き、立ち上がる。
マフラーをソファーの背に掛け、わたしはレトロな雰囲気を漂わせるお気に入りの白いチェストの前へとやって来た。
そして、そのチェストの上に置かれた黒いパッケージの煙草の箱に手を伸ばす。
わたしはその煙草の箱を手に持ちながら、小さなキッチンに向かい、換気口の下に置かれた折りたたみ式の丸椅子に腰を掛けた。
煙草の箱を開けると、わたしは中から一本の紙タバコを取り出し、慣れない手付きで右手の人差し指と中指で挟む。
それからガスコンロに火をつけ、その火から煙草に火を付けた。
わたしは煙草を咥えると、ゆっくりと吸い込む。
それに伴い灰になり短くなっていく煙草は、あなたを思い出させる苦い香りを漂わせた。
わたしは吸い込んだ煙を肺へは落とさず、そのまま口から吐き出していく。
普段煙草を吸うことがないわたしは、煙の肺への落とし方も知らなければ、落としたとてむせ込んでしまうのは目に見えていた。
この煙草は、わたしの私物ではない。
2週間前に出て行ったっきり、連絡が途絶えてしまった恋人、諒祐(りょうすけ)の物だ。
まだ煙草があるのに、「煙草を買いに行く。」と出て行き、それっきり―――···
わたしはまるで段ボール箱で置き去りにされた子猫のような気分だった。
きっと帰って来る―――
そう願いながら、諒祐が残して行った煙草を吸って、諒祐の匂いや温もりを思い出そうとしている、女々しい自分が嫌いだ。
わたしに執着していた諒祐が、こんなにも帰らず連絡が取れなかった事は今までに一度も無い。
そんな諒祐が帰って来ない···―――連絡も取れないのは、そういう事なのに、どこかでまだ諒祐を信じようとしている自分がいた。
いっその事、忘れてしまえばいいのに――――――
それなのに、わたしはどうして、帰って来るはずも無い飼い主が帰って来る事を信じて、段ボール箱の中で健気に待つ子猫のように待っているのだろう。