棘ある花も愛されたい
禅さんを見送り、自宅に入ったわたしは、ふわふわした気持ちのままソファーに腰を下ろす。
この感情は何だろう。
くすぐったいような温かいような、今までに感じた事のない感情だ。
そして、わたしの握り締める手の中には、禅さんから預かった禅さんの家の鍵―――···
わたしの新しい"居場所"。
わたしは、それをまるでお守り代わりのように大切にトートバッグの内ポケットへと入れる。
失くしてしまわないようにチャック付きの内ポケットの方へと仕舞った。
(今日も寒いなぁ。)
そう思ったわたしは、ストーブを点けようと立ち上がる。
するとその時、ふとチェストの上に置いていた諒祐の煙草が目に入った。
わたしはストーブの電源を入れた後でチェストへ歩み寄り、そっと煙草の箱に手を伸ばした。
恋しくて、諒祐の香りを思い出したくて吸っていたはずの煙草だったが、今のわたしは、それを見ても何とも思わなくなっていた。
(諒祐は、過去の人になったんだ。)
わたしはそう思うと、チェストの横に置いてある丸いゴミ箱の上で手を離し、諒祐の煙草をゴミ箱の中へと落とし入れた。
「さようなら。」
わたしはそう呟き、姿を消してから約3週間経つ諒祐に別れを告げたのだった。
それからわたしは、仕事が早番で夕方に帰宅出来る日や休日に禅さんの自宅を訪れるようになっていた。
禅さんに喜んでもらいたくて夕飯を作る事もあれば、ただ少しの時間を一緒に過ごす事もあった。
禅さんの仕事の邪魔にならないように時間を気にしながら行くようにはしていたのだが、禅さんは仕事中でも「居て構わないよ。」と言ってくれた。
「家に紗和ちゃんが居てくれてるって思うだけで、何か落ち着くから。居ない方が"会いたいなぁ"って気になって、仕事に集中出来ないんだよね。」
そう言って笑いながら髪をかき上げる禅さんを見て、わたしはふと気付いたのだが、禅さんは照れてる時に髪をかき上げるのが癖のようだ。
禅さんにそう言われてからは、わたしは禅さんが仕事中は、リビングのソファーで禅さんの小説を読んで過ごす事が増えていた。
そんなある日の仕事中―――
「土倉さん、最近なんか雰囲気変わりましたよね。」
買取をしたフィギュアのラッピングをしていると、その横でトレカの整理をしていた青佐くんがふと呟いた。
「えっ?そう?」
「はい、何かこう···柔らかくなったというか···、あっ!いや!今までがキツかったとか、そういう事ではなくて!」
咄嗟に言葉を訂正しようとする青佐くんは慌てていたが、わたしはクスッと笑い「大丈夫、気にしないで?」と言った。