棘ある花も愛されたい
わたしは諒祐の煙草を蒸しながら、諒祐の匂いを纏い、この場所で諒祐が煙草を蒸していた時に使っていた100円ショップで購入した丸い灰皿に煙草を押し付けた。
空っぽの胃の中はグルグルと音を立て、食欲はないが身体が固形物を欲しているのが分かる。
わたしは椅子から立ち上がると、床にしゃがみ込みすぐ傍にある冷蔵庫を開けた。
中に見えるのは、缶ビール2本と500mlのペットボトルに入った水だけ。
「何も無いなぁ。」
わたしはそう呟きながら、冷蔵庫を閉める。
立ち上がるわたしは、ソファーの背に掛けたマフラーを手に取り、適当に首に巻き付けると、トートバッグを手に取った。
まだ帰宅して来たばかりだが、近所のコンビニへ買い物に行く事にしたわたしは、再びムートンブーツに足を通すと、ガラス皿から鍵を掬い上げ、玄関の扉を開けた。
温まり始めたばかりの身体で外へ出ると、やけに寒さが身に沁みる。
わたしは黒いダウンジャケットのポケットに手を忍ばせると、白い吐息を吐きながらアパートの階段を下った。
そこから、通勤経路とは反対側へ向かい歩き出す。
道なりのまま少し歩いて行くと、右側に大きな公園が見えてくる。
夏になれば緑の芝生が広がり、鬼ごっこやサッカーをする子どもたちが溢れているような公園だ。
その横を通り過ぎ、少し先へ行くと広い通りに出て、その通り沿いにあるコンビニへとわたしは入って行った。
わたしは籠も取らずに店内を回り、冷蔵コーナーから納豆と胡瓜の浅漬けだけを手に取ると、レジへと向かった。
そこで会計を済ませたわたしは、レジ袋に納豆と胡瓜の浅漬けを入れてもらい、コンビニをあとにする。
それから今来た道を戻って行くのわけだが、わたしは公園に差し掛かったところで何気なくふと公園内に視線を移した。
すると、公園にある小山の上にあるベンチに寝そべる人影があり、その人は天に向けて手を伸ばしていた。
それを見て、わたしは足を止める。
(何してるんだろう······)
わたしは興味本位で足の向く方向を公園へと向けて歩き出す。
そして、口元をマフラーに隠しながらゆっくりと歩み寄って行き、わたしは小山を登って行った。
小山を登り切ろうとするところで、わたしはベンチに寝そべる人影の主が男性である事に気付く。
その男性は、黒いコートを羽織っており、乱れた長い前髪に鼻筋の通った端正な顔立ちをしていた。
そして、片腕を曲げて枕にし、もう片方の腕を空に向けて真っ直ぐ伸ばしている。
「···何してるんですか?」
滅多に自分から声を掛ける事が無いわたしの口から出て来た言葉に、わたし自身が驚く。
すると、その男性は微動だにしないままゆっくりと瞬きをし、柔らかな低い声で「あの月、掴めそうじゃない?」と言ったのだ。