傷ついた王子は森の魔女に癒される
 窓に吸い寄せられるように、一歩踏み出す。
 自分の足音が聞こえてきた瞬間、はっとして立ち止まった。

(窓から様子をうかがうなんて、失礼だろう……!)

 朝の冷えた空気を胸いっぱいに吸い込んで、深く吐き出す。
 白くなった吐息がそよ風に溶けていく。少しだけ落ち着きを取り戻す。
 焦っていては、伝えたい気持ちもうまく伝えられない。

 きっと起きてきたらなにかしら音が聞こえてくるはずだから、それまで待っていよう。
 木の根元に腰を下ろして待とうと思い、辺りを見回した、その瞬間。

「――……さん、……」

 人の声が聞こえてきた気がした。
 息を詰め、耳をそばだてる。
 気のせいか? でもリリアナの声に似ていたような。
 もう一度耳に意識を集中する。

「……げほっげほっ。ううっ……」
「――!」

 咳き込む音と、うめき声。
 リリアナが近くにいるのか?
 忍び足で歩き出し、窓に近付く。罪悪感を覚えながら中を覗く。しかし人影はなかった。

 さらに進み、家の裏手に行こうとした瞬間。

「うう……ファリエルさん……」

 リリアナがひとり泣いていた。
 裏庭の畑の巨大キャベツに寄り掛かって座り込み、膝を抱えて肩を震わせている。ミルクティー色の髪に隠れた顔は真っ赤になっていた。
 白い息を吐き出しながら、子供のように、しきりに目を拭っている。


「ファリエルさん、会いたいよ……。どうして私、追い出しちゃったんだろう……!」
< 101 / 117 >

この作品をシェア

pagetop