傷ついた王子は森の魔女に癒される
 魔女の言葉には一理あった。
 僕が婚約者の()に負けず、不審な点を追及できていれば。
 異母(あの)(おとこ)の策略になど嵌まりはしなかったのに――!

 自分にも責任はある。
 でも僕は今、リリアナが召喚してくれたからこそ生きている。
 彼女に救ってもらった命を、魔女の腹いせに捧げるわけにはいかない。


 魔女の作り出す魔法の球が、次第に大きくなっていく。
 あれを剣で斬れたとして、爆発はこれまでの比ではないだろう。

 砂埃が舞い上がり、光の球に収束していく。
 魔法の塊は確かに光っているはずなのに、その色は毒と闇を混ぜ合わせたような禍々しさを帯びていた。

 魔女がさらに腕を高く掲げる。
 ファリエルは体勢を低くして、剣を握る手に力を込めて衝撃に身構えた。その瞬間。

 リリアナが前に飛び出してきた。
 ファリエルをかばうように大きく両手を広げて声を張りあげる。

「やめて! コーデリアさん!」
「どきなさいリリアナ! 人間の男なんてろくでもないんだから!」

 リリアナは動かなかった。ミルクティー色の髪と黒いローブが風に揺れる。
 その先にある魔女の赤い目は、リリアナごと殺すのではないかと思うほどの憎しみがみなぎっていた。

「あなたに私みたいな目に遭ってほしくないの! そいつを殺させなさい!」
「私がファリエルさんをずっと引き留めてるだけなんです! だからお願い、ファリエルさんを殺さないで!」
「っ……!」

 リリアナが悲痛な声で叫んだ瞬間。

 魔女がぴくりと肩を震わせた。
 赤い瞳が、ほんの少しだけ揺れた気がした。
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