傷ついた王子は森の魔女に癒される
 見知らぬ人間を自分の森へと入れるのは、そのときが初めてだった。
 コーデリアさんに教えてもらいながら、ふたりで一緒に森へと人間を迎える手続きをした。
 一度目は失敗した。それでもコーデリアさんは優しく笑いながら手を握ってくれて、張り巡らされた結界への魔力の流し方を丁寧に教えてくれた。

 やっと手続きが終わって、そのことを恋人に伝えに行ったコーデリアさんを見送ったあと、どきどきしながら扉の前に立ってお客様を待った。
 コンコン、と控えめなノックの音は、今でもはっきりと思い出せる。


 扉を開けた瞬間。
 夢みたいな光景に、時間が止まった気がした。
 きらきらと輝く銀色の髪。花びらを光に透かし見たときのような、淡い紫色の瞳。
 ボナマハト王国の第二王子だという、ファリエル・ボナマハト王子。

 私がなにも言えずに固まっていると、困ったように微笑んだ王子様は膝を突いて、目の高さを合わせてくれた。

『はじめまして。僕はファリエル・ボナマハト。今日は、君の森へと招いてくれて本当にありがとう』

 温かな声。それまで聞いたことのある音の中で一番綺麗だと思った。
 優しい笑顔にどきどきが止まらなかった。


 私がぎくしゃくと歩きながら家の中に招き入れると、王子様は物珍しそうに部屋を見回してから、また私の目の前に膝を突いた。

『美貌が手に入るという秘薬を買わせて欲しい。僕にも売ってもらえるだろうか』
『えっ……あなたはそれ以上、うつくしくなりたいのですか!?』

 びっくりして声がひっくり返った。
 王子様が苦笑いを浮かべる。
 困った顔まで綺麗なんだなと思った。
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