キスしない約束の恋

第7話 選んだ先にあるもの

 ――答えは、もう出てる。

 

 

 蓮の前に立つ。

 

 

 心臓が、うるさい。

 

 

 でも。

 

 

 逃げない。

 

 

 

「……沙奈」

 

 

 名前を呼ばれる。

 

 

 その声が。

 

 

 少しだけ、震えていた。

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 ちゃんと、見る。

 

 

 

 前みたいに、逸らさない。

 

 

 

 

「……俺」

 

 

 

 一瞬、言葉を探す。

 

 

 

 

「変わったつもりだけど」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「まだ全部じゃねぇ」

 

 

 

 

 正直な言葉。

 

 

 

 

「だから」

 

 

 

 

「怖いのも、わかる」

 

 

 

 

 その一言で。

 

 

 

 

 胸が、揺れる。

 

 

 

 

 

「でも」

 

 

 

 

 

 一歩、近づく。

 

 

 

 

 

「逃げねぇから」

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「お前からも」

 

 

 

 

 

「自分からも」

 

 

 

 

 

 まっすぐに言う。

 

 

 

 

 

「……だから」

 

 

 

 

 

 少しだけ、間があって。

 

 

 

 

 

「もう一回、言う」

 

 

 

 

 

 

 空気が、静まる。

 

 

 

 

 

 

「好きだ」

 

 

 

 

 

 

 シンプルで。

 

 

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 

 

 一番重い言葉。

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 

 

 胸が、いっぱいになる。

 

 

 

 

 

 

「……私も」

 

 

 

 

 

 

 ちゃんと、言う。

 

 

 

 

 

 

「好きです」

 

 

 

 

 

 

 もう、迷わない。

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 空気が、ふっと緩む。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

 

 

 

 後ろから、ため息。

 

 

 

 

 

 

 振り向くと。

 

 

 

 

 

 

 湊。

 

 

 

 

 

 

「やっぱりね」

 

 

 

 

 

 

 少しだけ、笑う。

 

 

 

 

 

 

 

「……悪い」

 

 

 

 

 

 

 蓮が言う。

 

 

 

 

 

 

 

「別に」

 

 

 

 

 

 

 肩をすくめる。

 

 

 

 

 

 

 

「最初からわかってたし」

 

 

 

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 

 

 その目は、少しだけ寂しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

「沙奈」

 

 

 

 

 

 

 

 名前を呼ばれる。

 

 

 

 

 

 

 

「ちゃんと選んだね」

 

 

 

 

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

「それならいい」

 

 

 

 

 

 

 

 一歩、下がる。

 

 

 

 

 

 

 

「後悔しても、知らないけど」

 

 

 

 

 

 

 

 軽く笑う。

 

 

 

 

 

 

 

「でも」

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬だけ、真面目な顔になる。

 

 

 

 

 

 

 

「壊れたら」

 

 

 

 

 

 

 

「そのときは、俺が拾う」

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉が。

 

 

 

 

 

 

 

 少しだけ、優しかった。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあね」

 

 

 

 

 

 

 

 背を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 もう振り返らない。

 

 

 

 

 

 

 

 ――それが。

 

 

 

 

 

 

 

 湊なりの、終わり方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 静かになる屋上。

 

 

 

 

 

 

 

「……行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 蓮が言う。

 

 

 

 

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 並んで歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 少しだけ、近い距離。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ」

 

 

 

 

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

「まだ怖い?」

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、考える。

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 正直に言う。

 

 

 

 

 

 

 

「でも」

 

 

 

 

 

 

 

 続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「前より、怖くないです」

 

 

 

 

 

 

 

 少しだけ、笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 蓮も、少しだけ笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ」

 

 

 

 

 

 

 

 手が、差し出される。

 

 

 

 

 

 

 

「これも、いける?」

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、迷って。

 

 

 

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 

 

 

 そっと、重ねる。

 

 

 

 

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 指が、絡む。

 

 

 

 

 

 

 

 温かい。

 

 

 

 

 

 

 

 安心する。

 

 

 

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 

 

 

 それだけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 ちゃんと、ドキドキする。

 

 

 

 

 

 

 

 ――それが。

 

 

 

 

 

 

 

 私が選んだものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 怖くてもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 不安でもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 それでも。

 

 

 

 

 

 

 

 この人と、進みたい。

 

 

 

 

 

 

 

 そう思えたから。

 

 

 

 

 

 

 

 ――“シロ”だった私が。

 

 

 

 

 

 

 

 “朝比奈沙奈”として。

 

 

 

 

 

 

 

 誰かを選んだ日だった。
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