嘘つきな患者と、私の先生。

再会

数日後。



「ねぇ、今日どこ行く?」



「とりあえずショッピングモールでよくない?」



「いいね〜」



いつも通りの、ゆるい休日。



合コンのことも、なんとなく話題には出たけど。



「そういえばあの人たち、ちょっと変わってたよね〜」



「…そう?」



「なんか落ち着いてたし」



「ふーん」



適当に流す。



(あの人…)



ふと、思い出す。



無表情で、やけに見てくる男。



少しだけ、苦手なタイプ。



なのに——



「……」



なんでか、印象に残ってる。



「ねぇ見てこれ可愛くない?」



「ほんとだ、かわいい」



アクセサリーショップを見ながら笑う。



普通の時間。

そのとき。



胸が、少しだけ重くなる。



「……あれ」



息が、引っかかる。



(また…)



軽い。

まだ軽いけど。

分かる、この感じ。



「ちょっとトイレ行ってくる」



「え、今?」



「すぐ戻るから」



ごまかして、その場を離れる。



人が少ない通路に出て、壁にもたれる。



「……はぁ…」



少し呼吸が浅い。

でも、まだ大丈夫。



バッグを開ける。



いつもの薬。



指で取り出して、

そのまま口に入れようとする。



「またそれで誤魔化すの?」



低い声。



「っ…」



びくっとして、手が止まる。



ゆっくり振り返る。



「……は?」



そこにいたのは——



如月世那。



「なんで…」



思わず言葉が出る。



世那は、少しだけ眉をひそめてこっちを見てる。



「この前も同じことしてたよね」



「……」



言い返せない。

図星すぎて。



「それ、常用してるの」



「してないし」



反射的に否定する。



でも呼吸は乱れてる。



「してる顔してる」




「……うるさい」



また見られてる感じがして、嫌になる。



「発作出てるよね」



「出てない」



「出てる」



間髪入れずに返される。



「軽いだけだし」



「軽くても同じって言ったよね」



覚えてる。

あの時と同じ言い方。



「……なんでいるの」



「普通に来てるだけ」



「……最悪」



小さく呟く。



「それ飲む前に」



すっと手が伸びてくる。



反射的に少し引く。



「ちょっと貸して」



「やだし」



「いいから」



軽く取られる。



「……かえして」



「あとで」

「ちゃんと呼吸して」



近くで言われる。



また、その距離。



「してるし…」



「浅い」



すぐ否定。



「壁、使って」



軽く位置を誘導される。



「背中つけて」



言われるままに、もたれる。



悔しいのに、少し楽になる。



「ゆっくり吐いて」



低い声。



近い。



「……はぁ…」



ゆっくり吐く。



少しずつ整う呼吸。



「ほら、さっきよりマシ」



「……」



何も言えない。



「で、その薬」



手の中で軽く揺らされる。



「ちゃんと理解して使ってる?」



「してるし」



「してない」



「またそれ?」



少しイラッとする。



「同じこと繰り返してるから」



淡々とした声。



「この前も言ったよね」



「……」



覚えてる。

全部。



「市販で誤魔化すの、やめた方がいい」



「やだ」


「なんで」



「病院嫌いだから」



目を逸らして言う。



少しだけ沈黙。



「じゃあ、なおさらダメ」



「は?」



「ちゃんと管理できてない状態で使うの、一番危ない」






「……別にいいじゃん」



小さく反発する。



「よくない」



被せる。



「今も無理してるでしょ」



「してない」



「してる」



また同じやり取り。



「……なにそれ」



少しだけ笑う。



「“大丈夫”って言う人ほど、大丈夫じゃない」



あの時と同じ言葉。



「……」



何も言えない。



「ほんと、分かりやすい」



ぽつっと言われる。



「なにが」



「強がってるとこ」



少しだけ、柔らかい声。



「……別に」



視線を逸らす。



そのとき。



ふらっとする。



「ほら」



腕を軽く支えられる。



さっきより近い。



「……大丈夫だし」



「そのセリフ、禁止ね」



「……は?」



「信用できないから」



さらっと言われる。



「……なにそれ」



小さく笑う。



でも、少しだけ悔しい。



「ほんとにやばくなる前に、ちゃんとしなよ」



一歩だけ近づく。



「倒れたら意味ないから」



少しだけ低い声。



逃げられない距離。



「……」



言い返せない。



「……かえして」

差し出された薬を受け取る。

さっきより呼吸は落ち着いてる。

でも、なんか納得いかない。



「今は使わなくていいって言ったよね」

「……なにそれ」

少しだけ睨む。



「使わなくても戻るレベルだったから」

さらっと言われる。



「……分かった風に言わないで」

「分かるから言ってる」



「……」

言い返せないのが、余計にむかつく。



「ほんとにやばくなったらどうするの」

ふと、低く聞かれる。



「どうもしないし」


「するでしょ」


「しない」


「する」

またそれ。



「……うるさい」

小さく呟く。



少しの沈黙。

それから世那は、小さく息を吐いた。



「じゃあさ」

ポケットからスマホを取り出す。



「連絡先、教えて」

「……は?」

思わず顔を上げる。



「なんで」

「また同じことされたら困るから」

淡々とした理由。



「は?意味わかんない」

「分かんなくていい」



「やだし」




「じゃあこのまま帰すの不安なんだけど」


「別に大丈夫だし」


「その“大丈夫”信用できないって言ったよね」


被せられる。



「……」

ぐうの音も出ない。



「連絡先くらい」


「……」



(なんでこの人に)

そう思うのに。



「ほら」


スマホ差し出される。


待ってる感じ。




「……今回だけだから」


小さく言う。



「うん」


あっさり頷く。



連絡先を交換する。



「じゃあ」

世那は一歩下がる。



「無理すんなよ」

短く、それだけ。



「……」

返事はしない。



でも。

さっきより、少しだけ

嫌じゃなかった。
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