藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
『くるみ、定時になったらロビーで待ってる』
オフィスですれ違いざま、耳元でささやく温人に、くるみは身悶える。
「やーん! キュンキュンするー!」
漫画を胸に抱きしめて、ベッドのうえをゴロゴロと転がった。
中2の時から愛読している漫画は、現在も連載中。
それもきちんとリアルタイムに合わせて1年ずつ成長していく為、常に彼は3歳年上。
更には、佐伯温人がただ一人愛し続けているヒロインの名前が、七瀬くるみだった。
普段寡黙な温人は、気安く名前を呼んだり好きだと言わない代わりに、ここぞと言う時だけ低音ボイスで『くるみ』とささやく。
あ、なぜ低音ボイスとわかるのかといえば、私の耳にはそう聞こえるのだから仕方ない。
そして時折、グイッと抱きしめて『くるみ……』とかすれた声でささやきながら、熱くキスをしてくれる。
かすれた声も、私にはわかるのだ。
顔も性格もどストライク。
初めての告白も、初めてのキスも、恋のときめきは全て温人が教えてくれた。
彼が秀才だから受験勉強もがんばれたし、彼がテニス部だったから自分もテニスに打ち込めた。
ヒロインは温人を追いかけて同じ有名企業に就職し、周囲に黙ってオフィスラブを楽しんでることから、せめて私も同じ環境にいたいと大企業に就職した。
今も、彼に好かれる私でいたいと、懸命に仕事をこなしている。
ボブの髪型もきちんとしたオフィススタイルの服装も、彼が好きなくるみそのもの。
「私の人生、温人がいてくれたからこそなんだもん。温人が私を引き上げてくれるの」
「はいはい」
唯一このことを知っている同期の千夏は、温人の話をする度に適当に聞き流す。
「くるみ、この間、経理の野島課長に告白されたでしょ? 噂になってるよ。あんなにハイスペなイケメンを、一刀両断したって。もったいなーい」
「だって温人に比べたら、3次元の男性なんて、みんな霞んじゃうんだもん」
「なんて言って断ったの?」
「普通によ。私には心に決めた人がいますのでって」
「うーわ。まさか漫画の話だなんて思いもしないでしょうね、野島課長」
「仕方ないでしょ? 温人がかっこよすぎるのがいけないんだもん。最新話ではね、飲み会で酔いつぶれたくるみを、お姫様抱っこでうちまで運んだのよ。はあ、うっとり。大体さ、現実に女の子をスッとお姫様抱っこできる人なんて、格闘家やお相撲さん以外にいる? モデルみたいにスタイルのいいスーツ姿の温人が、くるみをふわっと抱き上げたのよ。ふわっと!」
はいはい、といつもの相づちが返ってくる。
「でさ、酔って記憶のないくるみが、温人の胸元をキュッと掴んで『はると……』って呟くの。その時の温人の愛おしそうな顔!!」
「はいはい」
「で、『まったく、どこまで可愛いんだ?』って言って、くるみのおでこにチュッてキスするの! あのシーンだけで、ご飯3杯いけたわよ」
「いや、食べすぎ! 温人に嫌われるよ?」
「大丈夫ー。温人はくるみのこと、絶対に嫌いにならないもん」
「そっちのくるみはね」
千夏になんて言われても気にしない。
温人が私の全てだった。
オフィスですれ違いざま、耳元でささやく温人に、くるみは身悶える。
「やーん! キュンキュンするー!」
漫画を胸に抱きしめて、ベッドのうえをゴロゴロと転がった。
中2の時から愛読している漫画は、現在も連載中。
それもきちんとリアルタイムに合わせて1年ずつ成長していく為、常に彼は3歳年上。
更には、佐伯温人がただ一人愛し続けているヒロインの名前が、七瀬くるみだった。
普段寡黙な温人は、気安く名前を呼んだり好きだと言わない代わりに、ここぞと言う時だけ低音ボイスで『くるみ』とささやく。
あ、なぜ低音ボイスとわかるのかといえば、私の耳にはそう聞こえるのだから仕方ない。
そして時折、グイッと抱きしめて『くるみ……』とかすれた声でささやきながら、熱くキスをしてくれる。
かすれた声も、私にはわかるのだ。
顔も性格もどストライク。
初めての告白も、初めてのキスも、恋のときめきは全て温人が教えてくれた。
彼が秀才だから受験勉強もがんばれたし、彼がテニス部だったから自分もテニスに打ち込めた。
ヒロインは温人を追いかけて同じ有名企業に就職し、周囲に黙ってオフィスラブを楽しんでることから、せめて私も同じ環境にいたいと大企業に就職した。
今も、彼に好かれる私でいたいと、懸命に仕事をこなしている。
ボブの髪型もきちんとしたオフィススタイルの服装も、彼が好きなくるみそのもの。
「私の人生、温人がいてくれたからこそなんだもん。温人が私を引き上げてくれるの」
「はいはい」
唯一このことを知っている同期の千夏は、温人の話をする度に適当に聞き流す。
「くるみ、この間、経理の野島課長に告白されたでしょ? 噂になってるよ。あんなにハイスペなイケメンを、一刀両断したって。もったいなーい」
「だって温人に比べたら、3次元の男性なんて、みんな霞んじゃうんだもん」
「なんて言って断ったの?」
「普通によ。私には心に決めた人がいますのでって」
「うーわ。まさか漫画の話だなんて思いもしないでしょうね、野島課長」
「仕方ないでしょ? 温人がかっこよすぎるのがいけないんだもん。最新話ではね、飲み会で酔いつぶれたくるみを、お姫様抱っこでうちまで運んだのよ。はあ、うっとり。大体さ、現実に女の子をスッとお姫様抱っこできる人なんて、格闘家やお相撲さん以外にいる? モデルみたいにスタイルのいいスーツ姿の温人が、くるみをふわっと抱き上げたのよ。ふわっと!」
はいはい、といつもの相づちが返ってくる。
「でさ、酔って記憶のないくるみが、温人の胸元をキュッと掴んで『はると……』って呟くの。その時の温人の愛おしそうな顔!!」
「はいはい」
「で、『まったく、どこまで可愛いんだ?』って言って、くるみのおでこにチュッてキスするの! あのシーンだけで、ご飯3杯いけたわよ」
「いや、食べすぎ! 温人に嫌われるよ?」
「大丈夫ー。温人はくるみのこと、絶対に嫌いにならないもん」
「そっちのくるみはね」
千夏になんて言われても気にしない。
温人が私の全てだった。