藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
ところがここ最近、不思議な現象に襲われる。

ふとした瞬間に、2次元にいるばずの温人が目の前に現れるのだ。

それはいつも、漫画のシーンとピタリとリンクした瞬間。

相手は決まって、4月に異動して来た部長だった。

「ね、藤木部長ってかっこいいね」

女の子たちがヒソヒソと顔を寄せ合って話していても、いつもの如く気にも留めなかった私。

それがある日突然、雷に打たれたように私の心を鷲掴みにしたのだ。

例えば、そう。
この間は千夏と社員食堂でランチを食べている時だった。

ちょうど斜め前に藤木部長の後ろ姿が見えた瞬間、私はハッと息を呑んだ。

(これは……! 第29巻の55ページ目。くるみがランチタイムに温人の背中を見つけてキュンとするシーン!)

そう思った瞬間、いつもは頭の中にいる温人が、現実の世界に現れた気がした。

恋焦がれてきた相手が、手の遠く距離にいる。

感動で目に涙が浮かび、切なさで胸はキュンキュン締めつけられた。

そしてまた別の日は、「これ、誰か落としたか?」と、藤木部長が私のボールペンを拾い上げた時。

(これは、第37巻の26ページ目! くるみが落としたボールペンを温人が拾い、手渡す瞬間、周りに気づかれないようキュッと小さく手を握ってから、スルリと指を滑らせるシーン)

脳裏にそのシーンが蘇り、私は一気に漫画の世界に引き込まれた。

いや正しくは、漫画の世界をバーチャルで楽しめるパラダイスワールドへ、だ。

(温人が、私の温人が、ボールペンを……)

その先の展開に胸がドキドキと高鳴り、手が触れ合った瞬間は全身にしびれが走った。

(ああ、温人……)

だが、漫画のシーンとリンクしない時は、藤木部長を見ても何も思わない。

まぁ冷静に考えれば、3次元で出会った男性の中では、藤木部長が1番温人に似ているかもしれないが、しょせんそれだけのこと。

(私の心は永遠に温人だけのもの)

私は本気でそう思っていた。
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