藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
「ただいま」
「おかえりなさい!」

玄関を開けると、まるで尻尾を振って駆け寄ってくる子犬のように、片瀬くるみが満面の笑みで現れた。

「こーら、足は?」
「大丈夫です! それより部長、どんな感じですか?」

片瀬くるみは俺の両腕を掴むと、首をかしげて背中の後ろを覗き込んだ。

「あれ? 持って来てくれなかった……」

今度はタレ耳ウサギになったように、ショボンとする。

俺は笑いをこらえつつ、カバンの中からサンプルを一部ずつ取り出した。

「ほら」
「わあっ! すてき、可愛い!」

片瀬くるみは両手で受け取ると、目を輝かせてピョンピョン跳ねる。

「こら! だめだろ」

やめさせようとして、俺は咄嗟に子どもを抱っこするように彼女を抱き上げた。

「ひゃっ、びっくりした。わあ、高ーい!」

嬉しそうに天井に手を伸ばす片瀬くるみは無邪気で、俺も思わず頬が緩んだ。

そのままリビングに行くと、ソファにそっと座らせる。

「足首はほんとに大丈夫か?」

ひざまずいて手を添え、少し動かしてみた。

「痛みは?」
「ないです。もう平気」
「よし。じゃあ、昼飯食べたらフォーラムへ行くか」
「はい! あのね、オムライス作ったの。デミグラスソースで、卵がトロトロの」
「へぇ、それは楽しみだ」

あまりに笑顔が可愛くて、俺はしばし現実を忘れる。

今夜から、彼女はもうここにはいないということを……
< 51 / 85 >

この作品をシェア

pagetop